『失敗学のすすめ』2005/4/15
畑村 洋太郎 (著)

「失敗を生かすコツ」は、失敗を恥や減点の対象としてではなく、肯定的に利用すること。失敗が新たな創造のヒントになることや、大きな事故を未然に防ぐ方法を教えてくれる『失敗学』の本です。
「失敗」というと、どうしても「できるだけ避けたい」とか、「隠したい」と思ってしまいがちですが、実は「創造的な設計をするためには、多くの失敗が必要」なのだそうです。……現実的に考えてみれば、最初からまったく失敗することなしに、何かを習得する・創造するなんてことは、普通の人間には不可能ですよね。
 この本によると、「失敗」には「よい失敗」と「悪い失敗」があるそうです。「よい失敗」は、未知との遭遇によるもの、すなわちその当時としては未知の原因による失敗で、最新の注意を払っても防ぎようがないものです。
 この代表的なものとして、「社会を発展させた三大事故」の「タコマ橋の崩壊」「コメットの飛行機事故」「輸送船リバティー事故」があげられていました。それぞれ当時は未知の現象だった「自励振動」「金属疲労」「低温脆性」によるもので、この事故をきっかけに、これらの現象を知ることが出来て、その後の科学技術の発展へと繋がったのだそうです。
 また個人にとっての「未知との遭遇」も「よい失敗」で、これは「無知やミスによるもの」ではありますが、人間の成長過程で通過するべき「必要な失敗」なのだとか。そして「悪い失敗」は、「よい失敗」以外の失敗のことです。
 ところで東大機械科の学習法には、失敗の体験をも目的の一つにしたグループ体験学習があるそうで、これは「四人一組で決められた予算内で自由にシステムを設計・製作させる」ものですが、条件が厳しいので失敗することが多いそうです。でも実はそれが真の狙いで、失敗を実際に体験し、その理由を分析することで、機械の設計・製作に必要な知識をより実践的に学ぶことが出来るのだとか。……東大の学生は、頭が良すぎて失敗体験が少ないかもしれないので、この体験学習は、人格の成長にも役立つかもしれない素晴らしい学習方法だなーと感心させられました。
 そしてすごく参考になったのが、「第六章 失敗を立体的にとらえる」の「「潜在失敗」を含み損としてとらえる」という次の考え方。
「企業の業績を示すバランスシートでは、含み損、含み益をすべて表すやり方がいまは国際標準になっています。(中略)その新たなバランスシートの負債の項目に「潜在失敗」を加えて会計処理を行ってみてはどうかというのが、私の提案です。「潜在失敗」とは、万一、失敗が生じたときの損害の程度を予測し、この総額に失敗の発生確率を乗じて、含み損として示していこうというものです。その考え方のベースにあるのは、リスク回避のための保険の発想と、時価評価の考え方です。」
 すでに実際に「保険金」でバランスシートに「潜在失敗をカバーするための費用」が盛り込まれている企業もあるのではないかと思いますが、そういう企業も含めて、この「潜在失敗」の含み損を試算してみると、何か新しい気づきが得られるのではないかと思わされました。
 この他にも、「実際の失敗を想定してそのときにどう行動するかを体得させる「訓練失敗」の実施」や、「免責を条件に失敗の真の原因をあぶり出すための司法取引制度(アメリカ)」など、参考になる情報をたくさん読むことが出来ました。
 やっぱり、「失敗」は成功のために不可欠なものですね!
 最後に、まとめとして、エピローグにあった文章の一部を、以下に紹介させていだだきます。
「失敗は、新たな創造行為の第一歩にすぎません。その失敗と上手につき合い、うまく活用していくためにも、まずは失敗を恥である、減点の対象であると考えるいまの日本の失敗文化そのものを変えていく必要があります。
 失敗を恥や減点対象としても、起こった失敗が隠蔽されて、より大きな失敗へと種を成長させるだけです。それよりも、失敗の実態をきちんと見すえながら次の失敗が起こらないシステムをつくるべきです。」
「失敗」についてだけでなく、学習や経営のいろいろな場面で実践的に参考になる情報が満載の『失敗学のすすめ』でした。ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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