『かかわり方のまなび方: ワークショップとファシリテーションの現場から』2014/10/8
西村 佳哲 (著)

 ワークショップとファシリテーションの現場で培われた「人とのかかわり方」を深く考察している本で、『自分の仕事をつくる』『自分をいかして生きる』に続くシリーズ第3弾です。
「人とのかかわり方」の現場として最初に取り上げられているのは、なんと自殺防止センター、「西原由記子さんに自殺防止活動の話をきく」でした。自殺しそうな人からの相談を聴くという、すごく辛そうな電話相談の仕事ですが、かかってくる電話には、一人で応じるわけではないそうです。その理由は「存在を一人で丸抱えするなんて出来ない」からだそうで……そうだろうなーと、その体制に感心させられました。相談する方はもちろん辛いのでしょうが、その相談に応じる方も、一人では精神的に潰れてしまいそうな気がします。西原さんは、「死ぬことを決めた本人の意思を尊重する」ことにしているそうで、個人的にはその態度に共感しますが、その一方で、「自殺防止センター」に電話を掛ける人は、自殺を止めて欲しい気持ちがあるからこそ電話をするのではないかとも思ってしまうので、私だったら、どう応対するだろうか……と、すごく考えさせられました。
 続いて、「1 ファシリテーターは何をしているのか?」「2 ワークショップとは何か?」というテーマで、ワークショップとファシリテーションの現場で働いている人びとのインタビュー記事になります。
 私自身、研修で、「ファシリテーター」の実施する「ワークショップ」に一回だけ参加したことがあったのですが、正直言って、「ファシリテーター」って、いったい何をする人だったのか? がいまいち分からなかったので、その時のことを思い出しながら、読み進めていきました。
「ファシリテーター」による「ワークショップ」は、とにかく参加者の主体性を重視するようです。例えば、あるファシリテーターは、「徹頭徹尾、自分のほうから内容を提示しない。その日その場に集まった人たちが声を出して、互いの言葉に耳を傾ける関係をつくり、その当人たちの発言を手がかりにミーティングを進めていく。」という方法をとっているのだとか。この本には、次のような記述もありました。
「拓くのも磨くのも、その人そのもの。限られた時間、区切られた空間でも、その中で自由に自分を出してゆける空気づくりとプログラムづくりが、ファシリテーターの大事な仕事ですよね。私の仕事は、子どもたちが自分の世界を開いて広げていく、そのお手伝いだと思っています。」
「参加型のワークショップでは、学びを促進するためにファシリテーターがあまりいろんなことをしない。仕組みだけつくっておいて、後は参加者同士でやってもらうもの、という区別を僕はしています。」
「ポイントは価値変容を強要しないし、誘導もしないということです。」
 ……やっぱり「参加者の自主性を重視」するというのが、ポイントのようです。ただ……実際に私自身が参加したワークショップに関する感想としては、「いったい何が目的の研修だったんだろう?」という、もやもやした謎が残っただけでなく、「ファシリテーター」の果たす役割にも疑問を感じてしまったことも事実です。「参加者の自由な会話」に委ねる前に、「目的を明らかにする」などの方向性を示して欲しかったように感じました。どちらかというと問題解決型人間のせいか、井戸端会議的会話には、とことん向いていないことを痛感させられ、すごく居心地が悪い時間を、なんとか乗り切ったという思い出しかありません。一応、その場では如才なく振る舞って、それらしい会話をし、なんとなくポジティブな感じで終わらせましたが……(汗)。
 この本を読んで、あのワークショップは、とにかく「参加者の主体性を引き出す」のが目的の研修だったのかも、と思わされましたが、1回きりのワークショップの場合は、「具体的な問題状況の解決」などの明確なテーマがあった方が、むしろ議論が進むのでは? と感じさせられました。あるいは、そのものズバリの「参加者の主体性を引き出すには、どんな研修が望ましいか」というテーマでも構わないと思います。
 ということで、ここまでは、なんとなく、もやもやした否定的な感想になってしまいましたが、「参加者の自主性を伸ばす参加型ワークショップ」というのは、日本人にとって重要なものだとも思います。
 というのも、日本人は「教えられ慣れ」し過ぎているような感じがするからです。「学ぶ」のも「生きる」のも自分のためのはずで、何かを「主体的に行う能力」は不可欠なのに、それを学ぶ機会はあまりなかったような……。そのため日本人には、「自主性」に不慣れな人間が多いようにも感じているので、ファシリテーターの皆さんは、ワークショップで「参加者が自主性を発揮しやすいような状況」を作って、少しずつ参加者の「主体性を引き出して」いって欲しいと思います。
 例えば、この本の中で紹介されていた「スパゲッティ・キャンティレバー」と呼ばれるワーク(パスタ1束などの渡された素材を自由に使って、ある条件を満たす構造体を二人でつくる30分のワーク)などは、参加者が「主体的に創造性を発揮しやすい」素晴らしいワークショップだと思います。
 人との「かかわり方」だけでなく、「教えること」とは何かなど、いろいろなことを考えさせられた本でした。あなたは、どう思うでしょうか。読んでみてください。
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