『沈黙の春 (新潮文庫)』1974/2/20
レイチェル カーソン (著), Rachel Carson (原著), 青樹 簗一 (翻訳)
自然を破壊し人体を蝕む化学薬品。その乱用の恐ろしさを最初に告発した本だと言われています。1962年に出版された古い本(原著(『サイレント・スプリング』)ですが、環境問題を考える時の必読書と言ってもいいと思います。
「沈黙の春」とは、化学薬品の濫用で破壊された自然からは、植物が枯れて鳥の声すら聞こえない……野原、森、沼地がみな静まり返って、いずれは人間すら病んで死んでいくだろうという恐ろしい警告です。
この本の出版された当時は、アメリカだけでなく日本でも公害が問題視され始めた頃。最近は中国のPM2.5(微小粒子状物質)がとても問題視されていますが、実はかつて日本でも、化学物質や煤で汚れた空、ぎらつく油膜で濁った川が身近にたくさんあり、公害病に倒れる人々が続出する悲惨な時代がありました。この本はそんな時代の世界に、自然保護と化学物質公害追放を呼びかけてくれたのです。多くの国の人々がこの声に耳を傾け、現実を変革してきたおかげで、川や湖が当時よりは美しくなり、空気も前よりはずっときれいになりました。それでもまだ、この本が明らかにした問題が完全に解決したわけではありません。これから何をしたらいいのかを考える上で、今でも参考になる本だと思います。
さて、さまざまな公害問題を起こしてきた合成化学薬品工業が、急速に発展した原因は、第二次世界大戦にあるそうです。「化学戦の研究を進めているうちに、殺虫力のあるさまざまな化学薬品が発明された。でも、偶然わかったわけではなかった。もともと人間を殺そうと、いろいろな昆虫がひろく実験台に使われたためだった。」とか。
そして戦争が終わった後、瓦礫の廃墟など不衛生な環境のせいで蔓延する病気を防ぐためには、これらの化学薬品がとても役立ったのです。害虫を防ぐために農薬などとしても使われるようになりました。化学薬品は、ある面ではとても役に立つものなのです。
カーソンさんも「化学合成殺虫剤の使用は厳禁だ、などと言うつもりはない。」と言っています。「毒のある、生物学的に悪影響を及ぼす化学薬品を、だれそれかまわずやたらと使わせているのはよくない、と言いたいのだ。その薬品にどういう副作用や潜在的毒性があるのか、考えてもみなければ知りもしないまま化学薬品を使う」のが良くないのだと……。
そしてカーソンさんは、この本の中で、化学薬品を使わずに害虫を防ぐさまざまな方法(雄不妊化、昆虫の分泌液の研究、音の利用、微生物の利用、天敵の利用など)も数多く紹介しています。
最も良い方法は、「自然そものもにそなわる力を利用する」ことなのでしょう。例えば、バラの木の間に、キンセンカ、センジュギクを植える対策をすることで、線虫の害を防ぐことができるそうです。また、背の高い木を伐採した後の道ばたや鉄道用地も、ただ草だけにするのではなく、低木を植えておくなど、他の植物を利用した方が良いと言っています。確かに、日当たりの良い道ばたに、草しか生えていなかったら背の高い木が生える余地がありますが、すでに低木が生えていたら背の高い木が生える余地はなくなりますよね。
化学薬品を広く散布する時には、もっと環境に害をあたえない他の方法がないのかを考えてみるべきなのでしょう。一つの一つの化学薬品にはあまり強い害がなくても、工場から排出されるさまざまな化合物が川に流されて湖水に溜り、空気、水、日光にふれるうちに新しい化合物を生み出してしまうこともありますし、湖水にいる生物の組織に蓄積されて世代から世代へと伝えられ、そして小さい生物から、それを捕食する大きい生物へと連鎖的に蓄積されていくこともあります。怖いですね……。
とは言っても、化学薬品をまったく使わないというのも現実的ではないと思います。化学薬品を使う時には、常に、他にもっと環境に悪影響が少ない方法はないのかをよく検討した上で使用し、悪影響が出ないかどうかを継続的に調査し、悪影響が出た時にはすぐに中止して改善方法を考えるようにすべきなのでしょう。
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