『ボルネオの奥地へ (シリーズ精神とランドスケープ)』1990/7
レドモンド・オハンロン (著), 白根 美保子 (翻訳)

 ボルネオの熱帯雨林の奥深くで、イギリスの博物学者と詩人とが繰り広げるユーモア溢れるジャングル探検記です☆
 1983年の旅行記なのですが……読んでいると、えええ? マジで? の連続。1983年は確かに結構昔ではあるけど……ARPANETがIPに変わってインターネット形成を始めたとか、青函トンネルの先進導坑が貫通したとか、アメリカ人初の女性宇宙飛行士を乗せたスペースシャトル「チャレンジャー」が打ち上げられたとか……それなりに現代のはずなのに、ボルネオの奥地では、人食い人種が吹き矢でプップッ……。
 これは冗談ではありません。実際にオハンロンさんが、シンガポールの空港ビルで警官に言われたことです。幸いなことに遭遇はしなかったようですが、人間の頭蓋骨を飾っている人にはたくさん出会ったようです。
 このボルネオ旅行の目的はよく分からないのですが、イギリス軍が出資した現地調査旅行なのでしょうか? 舟を漕ぎ、森を歩き、山を登る旅の描写がすごく克明で具体的なので、行ったことのない熱帯雨林なのに、すごく生々しくリアルに感じられます。
 また現地の人々との関係もかなり濃密。一緒に旅行をする現地ガイドだけでなく、ボルネオの奥地の村の人々とも酒を飲みかわし、一晩中ダンスをしたり歌ったり……。その行為や会話の内容もすごく詳しく記録されていて、まるでドキュメンタリー映画を見ているかのよう。著者のオハンロンさんは、たぶん恐ろしいほどの記憶力の持ち主なのでしょう。
 オハンロンさんたちは、このボルネオ行に先立って、英国空軍特殊部隊SASの演習場でハンモックの吊るし方などを学び、少佐にジャングルでの注意事項などを教えてもらうのですが、すごく役に立つアドバイスだと思ったのは、「朝は、必ず前の日に脱いだ濡れた服に着替えること」。荷物は60ポンド以下に抑えないといけないので、着替えは一組だけしか持てないため、そうする必要があるそうです。乾いた服が一組ないと、夜に眠れなくなって体力が奪われるとか。なるほど。体験者ならではのアドバイスですね。
 実際に、オハンロンさんは現地で、朝に起きると、前日の夜に干した服(まだ湿っている)に着替えるのですが、木からはずして振ると、ズボンのすそから虫たちがどっと出てきて、虫をはたき落とさなければならないのです。そしてバックパックを開けると、荷物の隙間という隙間には無数のアリが……。
 しかも熱帯雨林の森の夜は、静寂なんかではまったくなく、セミやカエルや鳥や、うろつく何かが騒がしい音を立てるとか……読んでいるとすごく興味深いのですが、こんな旅は絶対にイヤだ!
 激しく渦巻く川で溺れかけ、現地の人から怪しい食べ物(ご馳走)を勧められ、ヒルにたかられ……自分では絶対に出来ない(したくない)旅の記録を、文章の形で読めるのは、本当に幸せなことですね(笑)。
 とにかくこの本は、ユーモア本としても、未開地での旅行記としても、冒険本としても超一流! こんな面白い本はなかなかありません。ぜひ一度、読んでみてください☆
<Amazon商品リンク>