『日本海 その深層で起こっていること (ブルーバックス)』2016/2/19
蒲生 俊敬 (著)
日本人にとっての「母なる海・日本海」の知られざる姿を解き明かしてくれる海洋科学の本です。
日本海は、日本にとって、とても大切な働きをしてくれている海なのだそうです。
「日本海は大量の海水を蒸発させて淡水をつくり、それをそっくり日本列島に供給してくれる天然の造水装置なのです。山地の雪は、かんたんには融けません。ゆっくり時間をかけて融けたあとは、河川水として海に戻るものもありますが、一部は地中にじわじわとしみ込み、地下水となって地下に長時間貯蔵されるという、うまいしくみが存在します。」
……確かにそうですね。冬の日本海側はいつも暗くて、しょっちゅう雪が降っていることを残念に思っていた時期もありました(汗)が……本当はとてもありがたいことで、そのおかげで東日本にまで潤沢な水が供給されているようです。
また日本海は、いつでも「豊かな海」だったわけではなく、実はわずか8000年前まで「死の海」だったこともあるのだとか! 日本海底をボーリングして採取したコア資料を、浅いところから深いところに向かって並べてみると、黒色層と白色層の繰り返しが延々と続いていることがわかったのですが、この黒色層は酸素が少ない層、白色層は酸素が多い層なのだそうです。つまり黒色層(死の海)だった時期と、白色層(豊かな海)だった時期が繰り返されているのですが、この黒っぽい層が頻出する時期はおおむね氷期に、白っぽい層は間氷期にほぼ対応しているのだとか。
氷期には、海水の一部が陸上の氷として凍結して地上に固定されるため、海水準が低下することが知られています。この氷期に、津軽海峡や対馬海峡なども含めた日本海全体が浅くなり、表層水と深層水をかき混ぜる「熱塩循環」がほぼ停止してしまったと考えられ、日本海の深層に酸素ガスが供給されなくなって「死の海」化してしまっていたようです。
……日本海ではそんなことが起こっていたんですか……。
そして日本海は、環境変化を先取りする「ミニ海洋」としても注目されているそうです。広大な大洋と同じように「熱塩循環」している日本海は、その時間スケールが全海洋の約1/10という全海洋のミニチュア版(海洋の「鋭敏なカナリア」)と考えられていて、日本海の環境変化を調査することで、海洋が今後どのように変化していくかを予想できるのかもしれないのだとか。
日本海はいま、「酸素の減少」「低層水の水温上昇」「酸性化」の傾向を示していて、全海洋も、それを後追いするように酸性化などが進んでいるそうです。日本海は、酸性化がすでに深層まで続いているという心配な状況になっているようですが……これらの研究が進んで、よりよい環境にしていくための方策につながっていくことを期待したいと思います。
日本海について、その成り立ちから、海洋研究の具体的な方法、研究で分かってきたことなどを総合的に知ることが出来る本でした。地球環境や生物に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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