『太平洋 その深層で起こっていること (ブルーバックス) 』2018/8/22
蒲生 俊敬 (著)

海面からは見通せない太平洋の深部で、何が起こっているのかを教えてくれる本です。
宇宙飛行士が550人を数えている現代ですが、1万m超の海溝底に到達したのは、実はたったの3人だけなのだそうです。超深海は、月よりも遠いところなんですね……。
この本は、調査航海・潜航歴40年の第一人者の蒲生さんが、太平洋の深層について、その調査の歴史や、現在分かっていることを分かりやすく教えてくれます。
地震国の日本に住んでいる者として、太平洋の深層で気になるのは、やはり海底火山やプレートのこと。太平洋の海底火山は、悠久の時間のなかで、次のような経過をたどっているようです。
「(前略)ホットスポット火山には、悠久の地球史を切り取って演じられるドラマを感じました。深い海の底で、あるとき始まる火山活動、長い時間をかけて山体が成長し、ついに海面上に姿を現して火山島になります。激しい噴煙や、噴出するマグマに彩られたその勇姿は、誰をも平伏させる威容に満ちています。しかし、やがて栄華の時は過ぎ、噴火活動を停止した山体は、浸食を受け、サンゴ礁に覆われながら、海中にその身を没していきます。そして、深海底に聳え立つ威風堂々たる海山としてプレートに乗って移動を続けますが、やがてしずしずと海溝に沈み、その生涯を閉じます。」
なるほど……海底は、静かに、そして時にダイナミックに動いているんですね。地球は生きているんだ……。
世界最大の海・太平洋は、平均深度が4188メートルもあり、最も深いのは西太平洋のマリアナ海溝にあるチャレンジャー海淵(深さ1万920メートル)なのだそうです。意外に深いんですね!
そして海底の調査は6000メートルまでは進んでいるのですが、それ以上になるとデータは空白だらけなのだそうです。
日本は「海洋国」なだけでなく、「地震(災害)国」でもあるので、深海の研究は、これからもどんどん進めて欲しいと願っています。蒲生さんは超深海の「有人探査」を期待しているようですが、超深海はかなり危険なようだし、コストも気にかかるので、個人的にはむしろ「無人探査機」の量産で、さまざまなデータを集めることが大事ではないかと考えさせられました。
さて、深くて暗い超深海にも、魔の手がじわじわ忍び寄っているようです。それは「人工汚染物質」。最近、海洋のプラスチックごみがすごく問題になっていて、レジ袋やストローの使用を抑制する動きが世界中で広まっていますが、この汚染は、なんと1万メートル以深の海溝底にも及んでいるようです。2017年2月、西太平洋のマリアナ海溝とケルマデック海溝の水深1万メートルを超える海底から採取した端脚類(ヨコエビ)の体内から、高濃度のPOPs(難分解性有機汚染物質)が検出されたのだとか。このような汚染物質は、もちろん海洋生物や植物(魚など)から人間へと戻ってきてしまうので、本当に他人事ではありません。プラスチックごみを正しく処理するよう、私自身も心がけたいと思いました。
太平洋(の深層)について、いろんな知識を得ることが出来る本でした。地球環境や生物に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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