『図説 地球科学の事典』2018/4/25
鳥海 光弘 (著, 編集)

地球惑星科学の基礎知識108の項目を、見開きページでビジュアルに解説してくれる本です。内容は次の通りです。
第1章 地殻・マントルを含めた造山運動―日本の地質付加体
第2章 地球史
第3章 地球深部の物質科学
第4章 地球化学:物質分化と循環
第5章 測地・固体地球変動
第6章 プレート境界の実像と巨大地震・津波・火山
第7章 地球内部の地球物理学的構造
第8章 地殻・マントルシミュレーション
第9章 太陽系天体

造山運動や地球史、地球深部の物質科学、さらに地殻・マントルシミュレーションや太陽系天体など、地学好きには興味深い内容が満載です。
ただし内容がかなり専門的なので、いくつか「難解過ぎる……」と感じる項目もありましたが……(汗)。それでも全項目、見開きページの読み切り形式で解説(フルカラーの図・写真つき)してくれるので、短い時間に少しずつ読み進めることで、最新の地球惑星科学の知識を習得していくことが出来るのではないかと思います。
参考までに、個人的にとても興味深かった項目のうち、一つだけを以下に紹介してみます。「第1章 地殻・マントルを含めた造山運動―日本の地質付加体」の「リソスフェア」に関連した項目の一部です。
「超塑性とは、物を引っ張ると破壊せず、数倍も長い伸びを示す固体の性質のことである。(中略)これらの発見により、超塑性が物質によらず、普遍的な変形特性であるという理解になってきた。これまで、変形を受けた岩石においても、材料中の超塑性変形後の微細組織と類似するものがあり、それを岩石中の超塑性流動と考えることはあった。しかし、実際に、地球内部の主要鉱物で超塑性を示すことが示されたのは、金属の超塑性発見から実に75年を経て、つい最近のことである。図1(注:図は省略)は、マントルの主要鉱物であるかんらん石多結晶体が、高温化で最大6倍も長くなった実験結果を示したものである。」
……へえー、高温だと「かんらん石」も、なんと6倍も伸びることがあるんですね!
この他にも、「インドの移動経路(アジア大陸へのインドの衝突)」など、興味深い記事が多数ありました(なお巻末に参考文献や索引がある他、デジタル付録もあります)。
とはいうものの、地球科学は扱っている分野が巨大なだけでなく、直接観察できない場所(地球深部)が多いせいか、まだあまり解明できていないことも多いようで、解説記事の最後に「今後の研究の展開が待たれる」という意味のことが書いてあるものも多かったと思います。
それでも今後は、新しい技術(IoTや観測衛星、観測技術、シミュレーション)を駆使することで、さまざまな地球惑星科学の解明がどんどん進み、防災や減災にも役に立っていくのではないかということに希望を持てました。
例えば、GNSS(全地球測位システム)は、巨大地震規模即時推定のために利用できるようです。
「(前略)GNSSデータをリアルタイム解析によって地殻変動の原因である震源断層の位置、大きさ、断層面上でのすべり量などを推定することで、巨大地震(マグニチュード8.0以上)の地震規模が即座に推定可能であるとする研究がこれまでに示されている。日本では国土地理院と東北大学の共同研究によって、GNSSを用いたリアルタイム地殻変動監視とそれを用いた地震規模即時推定システムの開発が進められ、将来的な巨大地震規模の、より正確な把握への貢献が期待されている。」
地球科学研究が進むことで、地震などの自然災害の予測が出来るようになることももちろん期待したいですが、たとえ予測が不可能であっても、地球科学研究のためのIoTや観測衛星のデータを使うことで、災害発生直後の状況(推移)の把握が素早くできて、どの経路で支援物資を送ったらいいのかとか、二次災害を起こすような危険なもの(状態)がないか調べられるなど、減災や復旧に役立つことも出来そうな気がします。
……ということで、興味深い記事が満載の『地球科学の事典』ですが、実は価格が8200円+税もするのです(汗)。内容からみると高くないのかもしれませんが、実際に購入する前には、ぜひ書店や図書館などで実物を確かめることをお勧めします。
なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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