『タイムトラベル 「時間」の歴史を物語る』2018/8/27
ジェイムズ グリック (著), 夏目 大 (翻訳)
「時間とは何か」。有史以来人類を悩ませてきたこの問題を、想像上の概念である「タイムトラベル」から読み解くサイエンス・ノンフィクションです。
数々の「時間旅行」物語……H・G・ウェルズの『タイムマシン』、ボルヘス『八岐の園』、プルースト『失われた時を求めて』、ウディ・アレン『ミッドナイト・イン・パリ』、『浦島太郎』、村上春樹『1Q84』など、そして科学者たち……ニュートン、アインシュタイン、ファインマン、ホーキングなどの著作や言葉を総動員して、時間の本質を深く考察します。
さて、この本のタイトルでもある「タイムトラベル」は、意外にもかなり新しい考え方なのだそうです。なんとH・G・ウェルズの超有名なSF『タイムマシン(1895年)』が、私たちの時間に関する概念を大きく変えてしまったのだとか。
ええ? 「タイムトラベル」なんてSFでも超おなじみのネタ、当たり前の概念のような気がしていましたが……。これに関して、グリックさんは次のように言っています。
「時間旅行という概念は、竜退治の神話と同じくらい古いと思っている。だが、実際にはそうではない。古代人には、永遠の命、生まれ変わり、死者の国といった概念はあったが、時間旅行という概念はなかった。現代人には馴染み深い「タイムマシン」など、まったく想像の外だった。」
……そうだったんだ……。『タイムマシン』以前にも、『マハーバーラタ』や『浦島太郎』など時間旅行をしているような感じの話はありますが、「時間を旅する機械」に乗って他の時代に、という話はなかったようです。
「現代の私たちは、祖先が持っていなかったような時間の感覚を獲得している。この感覚を獲得するまでには長い時間がかかった。時間、日付というものに対する意識が一気に高まったのは、西暦1900年の前後である。」
「では、具体的にはいつ頃、そうした変化が起きたのだろうか。人間の認識の変化にはまず、グーテンベルクの印刷術の発明が大きな影響を与えたと考えられる。文化の記憶が、はっきりと目に見えるかたちで保存されるようになり、それを多くの人が共有するようになった。産業革命が起き、数多くの新しい機械が生まれたことも重要である。社会が誰の目にもはっきりわかるほど、急速に変化するようになった。」
……なるほど、考えてみれば、庶民が利用できる詳しい暦が作られたのも近世になってからですし、昔は、正確な時間など知らなくても、生活には困らなかったのかもしれません。
そして物理学者ニュートンによって、時間は科学にとって必須の要素にされ、彼の時間に対する考え方は、現代の私たちに受け継がれました。
「絶対的な時間、真の時間、数学的な時間は、元来、それだけで、他の何にも頼ることなく均一に流れていく……」
この「神の時間(絶対時間)」は、その後、アインシュタインによって「時間の絶対的な定義などできない」と修正されることになりましたが、そもそも私たちは、「時間」について、よく知っているようで、実はその本質すら分かっていないようです。例えば、辞書による時間の定義は、次のような感じだとか。「非空間的な連続体。その中では、過去から現在、未来へと向かい、物事が不可逆に見える順序で起きていく(アメリカ・ヘリテッジ英語辞典第5版)」……うーん、分かるような分からないような……。
この「新しい」概念の「時間」は、現在の私たちにとっては、なくてはならないものに。 鉄道の普及が「標準時」を必要とし、電信の発明がその標準時の設定を可能にしてくれてから、「時間」はどんどん重要性を増してきて、今では、電話での会話や、インターネット経由での送金など、生活のあらゆる側面で、「標準時」は不可欠になっています。
でもこの本を読むと……私たちが考えている「世界中の時計が、同じ間隔の刻みで同じように進む」というのが常識となったのは、実は世界中に、「絶対時間(ニュートン的な時間の考え方)」を利用して設計された機械がたくさんあって、それを使って生活するのに便利だからに過ぎないんじゃないの? という疑いを抱くようになりました。時間が「実在」するかどうかについては、少なくとも、「時間」という概念なしに生活するなんて想像もできないので、その「実在」を疑う気にはなりませんが、「時間がいつも均一に流れる必要はない」、「みんなが同じ刻みの時間を使う必要はない」ような気がします。
誰か他の人たちと合わせる時や、機械を使う時には、どうしても「標準時」が必要ですが、自分一人の時には、寝ている時と起きている時で違う時間を使ったり、子どもや大人、老人になった時で、それぞれ違う時間を使ったりしても構わないような……なぜなら時間は「変化」があるからこそ必要なのだし、「変化の速さ」は、一人一人違っているのだから。……でも、まあ、いちいち違う時計を使うのは面倒なので、やっぱり「標準時」だけでもいいですが(笑)。
だけど……ビックバン直後の時間とか、ブラックホールの近くの時間も、いつも「標準時」だけでいいのかなーとか、いろいろ考えれば考えるほど、頭が混乱してくるのです……「時間」って……すごく難しいですね。
400ページ以上もあって読むのは少し大変でしたが、時間についてのいろいろな知識を得られただけでなく、時間のことを深く考えさせられる本でした。ぜひ読んでみてください。時間に関する、いろんな妄想をして思いきり楽しみましょう。
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