『どうして心臓は動き続けるの?:生命をささえるタンパク質のなぞにせまる』2018/11/20
大阪大学蛋白質研究所 (編集)

食べ物としてのタンパク質や、病気とタンパク質との関係などを、質疑応答形式で解説してくれる本です。
「[06]どうして心臓は動き続けるの?」、「[07]葉緑体があれば,動物細胞も光合成できるの?」など、一見タンパク質とは無関係に思えるようなものも含まれる25の疑問について、「タンパク質」の観点から、詳しく解説してくれます。
写真でも分かるように、カラフルで正方形という、ぱっと見た感じでは「絵本」のような本ですが、タンパク質に関する解説はかなり詳しくて専門的なので、生化学や医学に関する知識がない方には、かなり難しいのではないかと思います。中高生向けの科学入門書みたいな概観をしていたので、うっかり気楽な気分で読み始めてしまいましたが(汗)、最初の「PART 1 生命をささえる分子」から、解説に専門用語がどんどん出てきて……うーん……これは……と思いながら歯をくいしばって頑張って読みました(汗)。それでも「PART 2 タンパク質と細胞」以降になると、「[06]どうして心臓は動き続けるの?」など興味津々なものばかりなので、なんとか最後まで読み進めることが出来ました(笑)。ということで、この本は中高生向けというよりは、大学生以上の専門家向けの本だと思います。

さて、この本のタイトル「どうして心臓は動き続けるの?」に対する答えは、ざっくり言うと、「心臓の筋肉にはエネルギーの生産工場であるミトコンドリアが多くふくまれており、ミトコンドリアによってつくりだされるアデノシン三リン酸(ATP)が心筋を動かすエネルギー源になっている。」ということですが、ミトコンドリアがどのように働いているかなど、さらに詳しい説明がみっちり書いてありましたので、興味のある方はぜひ本書を読んでみてください。
個人的に面白かったのは、「[07]葉緑体があれば,動物細胞も光合成できるの?」で、その答えには、「光合成は植物がもつ葉緑体でおこなわれている。葉緑体は二重の膜構造をもつ細胞内小器官で、大昔に光合成をおこなうシアノバクテリアの祖先を取り込んで進化したと考えられている。(中略)葉緑体DNAの情報を解析すると、現存のシアノバクテリアのゲノム情報と類縁関係があり、同じ祖先をもつことがあきらかになっている。葉緑体がどう共生されてきたかがわかれば、わたしたち動物も光合成できるかもしれない。」と書いてありました。
なんとウミウシの一種には、藻類から葉緑体だけを消化せずに細胞内に取り込むものがいるそうです。彼らが、光合成で得られたエネルギーを利用しているのかどうかは不明のようですが、体内で、長いあいだ葉緑体を維持し続けることは出来るのだとか……葉緑体をもっている動物って、なんかエコな感じがしますね(残念ながら、この本によると、葉緑体を持っていたとしても、光合成できる量が少なすぎて、エコとは言えないようですが……)。
その他にも、「[08]iPS細胞はオールマイティーなの?」には、iPS細胞の作り方の簡単な解説があったり、「[24]病気になるかどうかは、どうやってわかるの?」には、「タンパク質はまさに生命を担う中心となる分子なので、からだのなかで働いている様態(構造変化や存在量の変動)を調べることができれば、病気を予測したり、予防や治療したりすることもできるようになる。」などの説明があったりするなど、興味深い記事が満載です。
「わたしたちの身体を構成する要素のうち、約20%がタンパク質でできており、60%を占める水に次いで2番目に多い」のだそうです。身体のさまざまな器官がタンパク質でできているだけでなく、それそれの器官や臓器でおこなわれる知覚や脳・神経の働き、あるいは食べものの消化といった反応も、それぞれ受容体タンパク質や酵素タンパク質が中心になって行われていて、さらに世代を超えて遺伝情報を伝えたり、遺伝情報からタンパク質分子という物理的な実体を発現させたりするときにも、さまざま種類のタンパク質が働いているのだとか。
タンパク質の働きを知ることで、私たちの身体のことを、とても深く知ることが出来るんですね。生化学や医学に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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