『ジェネリック』2017/12/16
ジェレミー・A・グリーン (著), 野中 香方子 (翻訳)
ジェネリック薬は先発薬とどのように「同じ」なのか……ジェネリックの誕生から社会に定着するまでの全体像(ジェネリックの歴史)をはじめて明らかにしてくれた本です。
ジェネリック薬とは、先発薬(ブランド薬)と有効成分の化学構造が同じ医薬品で、先発薬の特許満了後に発売され、開発にかかる費用が少ないため低価格で販売できるのが強みです。個人的には、病院も薬も嫌いで、出来るだけ「行かない・飲まない」ことをモットーとしているので(汗)、最近よく聞くようになった「ジェネリック」についても、「有効成分の化学構造が同じ医薬品」で、「要するに特許切れの高い先発薬と同じに作ってあるけど安いんでしょ」と単純に思い込んでいました。
でもこの本を読んで、ジェネリックと先発薬はどのように「同じ」なのか? そもそも、ジェネリックはどのように作られているのか? ということに疑問を感じるようになりました。この本の序章には次のような記述があります。
「ジェネリックは先発薬と同等、という言い分は、先発薬とまったく同じだからではなく、必要十分に似ていることに基づく。つまり、肝心なところが同じということなのだ。したがって、ジェネリックとブランド薬が同じかどうかという議論は、突き詰めれば、体内での作用に欠かせないのは薬のどの側面化という議論だと言える。含有する有効成分が同じならいいのか、それとも、他にも効果に影響を及ぼす重要な何かがあるのか。この答えを出すのは、思うほど簡単ではない。」
「科学的に同質だと呼ばれるものに、実は大きな違いが潜んでいることがあるのだ。例えば、鎮静剤サリドマイドのR体とS体は睡眠薬としての効果は同じだが、先天異常をもたらすのはS体だけだ。(中略)分子構造のどのような違いが重要で、どれが重要でないかは、完全にはわかっておらず、化学分野だけでその答えを明かすことはできない。」
……そうだったんですか……。
しかも「有効成分」だけの問題でもないようです。
「しかし化学だけが同等性の科学ではない。二種の錠剤が、同じ有効成分を同量含有していても、人体への影響が異なる可能性がある。例えば、胃の中で溶ける時間が違った場合、あるいは、有効成分が血流中に現れるまでの速度が違う場合。果ては、結合剤、賦形剤、着色料、シェラック・コーティングの影響が異なる場合。薬は単なる分子の塊ではない。ごくありきたりの錠剤も、その薬理作用を必要とする体内の部位に届けるまでには、複雑な技術が絡んでいるのだ。」
……この本は、「今日、国内でも国際的にもスムーズに流通しているジェネリックは、ほんの数十年前までは取引の是非が喧しく論じられ、さらにその数十年前には、まともな薬として認められてさえいなかった。ジェネリックは地味なパッケージの下に、同じ薬をつくるという現代医学・薬学の飽くなき挑戦の歴史を秘めているのだ。」ということを、ジェネリックが辿ってきた歴史の紹介を通してじっくり教えてくれます。つい半世紀ほど前には、まともな模倣薬(ジェネリック)の他、劣悪な環境下で作られた模倣薬、さらには偽薬までが売られていたのだとか。ブランド薬や模倣薬メーカーが利益をめぐってしのぎを削り合うとか、政治や組織的な争いとか、ジェネリックをめぐる複雑な歴史(状況)をいろいろな側面から知ることが出来ました。
著者のグリーンさんは、こう言います。「わたしは医師として、親として、また患者として、ジェネリックはブランド薬と品質は同じだが安いという前提を信じている。健康管理サービスを安く提供することに総じて失敗してきた医療分野において、高価なブランド薬を生物学的に同等で割安なジェネリックで代替できるようになったことは、数少ない快挙と言えるだろう。」
……ジェネリックがブランド薬と本当に同じかどうかは明確ではないようですが、検査によって安全性が担保された上で、患者の治療に現実に役立つならば、とても有用だと言えるのだと思います。ジェネリックが薬学(医学)の発展に貢献してきたこと、また進んだ医療をより大勢の人が受けられるようになることに貢献していることを考えると、今後も利用され続けるべきなのではないかと思います(ただしジェネリックはブランド薬と「完全に同じ」ではないようなので、薬をジェネリックに変えたことで、自分の病状が悪化したように感じた時には、ブランド薬に戻すか、他のジェネリックを試すなどを行った方がいいようですが……)。
ジェネリックをめぐっては、特許権問題や、新薬の開発意欲を阻害しているなどの問題がある他、高分子医薬品のコピーが作りにくいなどの課題もあるようですが、「薬剤研究プロセスの効率性の向上」や「検査技術の向上」を取り入れることで、今後も、より安全で、多くの人が使える価格の薬を作り続ける努力をして欲しいと思います。
かなり専門的な内容の本ですが、とても読み応えがありました。ジェネリックの歴史をここまで詳しくまとめた本は初めてだということなので、医学や薬学に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。