『土と内臓 (微生物がつくる世界)』2016/11/12
デイビッド・モントゴメリー (著), アン・ビクレー (著), 片岡 夏実 (翻訳)

マイクロバイオーム研究で解き明かされた人体での驚くべき微生物の働きと、土壌根圏での微生物相の働きによる豊かな農業とガーデニング。著者の科学者夫妻が、自宅の庭のガーデニングと、自らのがん体験から、土壌と人体を取り巻く微生物が、わたしたちの生命にとって欠かせない役割を果たしていることを詳しく教えてくれる本です。
微生物や細菌というと、「悪いやつ」で殺菌しなければ……と思ってしまいがちですが(汗)、実は、さまざまな場面ですごく大切な役割を果たしていることが分かってきています。私たちの体内には、自分の細胞以上に微生物や細菌が大量に棲みついているのです……それもなんと3倍以上も! 身体の内外いたるところ、皮膚、肺、膣、つま先、ひじ、耳、目、腸にいるのだそうです(うわあ……)。
でも歴史を勉強した時に、猛威をふるった黒死病(ペスト)の終息に一番効果があったのは、下水道などの衛生施設の整備だったし、感染症での死者を減らしたのも手洗いなど病院内の「除菌・清掃」だったはずでは? と思う一方で、そう言えば細菌の中にはヨーグルトのビフィズス菌など身体にいい菌もあるし、自分の免疫力を鍛えるため軽い病気にかかるのはむしろ身体にいいことではないかと前から思ってもいたなあ……と考えながら読み進めていきました。
この本は、生物や地質に科学的知識のある夫妻が、シアトル北部の荒れ果てた敷地に立つ古い家を買い、意気揚々とガーデニングを始めるべくシャベルをふるってみて、15センチ下が粘土と氷礫土だったことに気づくシーンから始まります。それをいかに安価に肥沃な土壌にしていくか、彼らの奮闘が始まりました。もともと地質と植物が専門の彼らなので、驚くほどはやく土壌改善をなしとげてしまうのですが、その過程がすごく参考になります。土壌を元気にするには、大量の有機物が必要ということで、近隣や業者からコーヒーかすや木くずを大量に貰ったり、動物園から草食動物の糞から出来た堆肥を買ってきたり、自宅の生ごみを埋めたり……これらが自宅の庭でどんどん黒い土に変化していくさまを見て、彼らは土壌の中がどうなっているのかを調べ始めます。そこにはたくさんの細菌や微生物がひしめいていました。そしてこれこそが土壌の健康に不可欠なものだということに、彼らは気づいたのです。
そして奥さんがガンになったことをきっかけに、彼らは人体のことも調べ始め、人体の中にも驚くほどたくさんの細菌や微生物がいることを知ります。とくに腸には、まるで土壌のように大量の微生物が棲みつき、免疫と関わっていることが分かってきました。腸内で良い微生物を増やしていくことは、人間の健康に大きく貢献するようです。
不潔さが病気をもたらすことは当然ですが、清潔にしすぎることが逆に健康を阻害してしまうこともあるようです。除菌によって微生物が排除された跡地には、また何かの微生物が入り込んできます。それは悪い細菌かもしれません。むしろ体内には「良い細菌」を増やすようにし、たまに侵入してくる「悪い細菌」と戦わせることで、免疫力を鍛えるべきなのかもしれないと思わされました。
同じように土壌も、除草剤で雑草を取り除き農薬で収穫量をあげてばかりいると、土壌内のミネラルが減少したり、病害に弱くなったりしてしまうことが多いようです。自然をうまく活用して健全なバランスを保っていくことが大事なのだなと思わされました。
生物学の専門用語も多くて、読みやすい本ではありませんでしたが(汗)、とても参考になることが多かったと思います。早速、コーヒーかすや生ごみを庭に埋めて野菜を育てたくなり、野菜やヨーグルトを食事に増やさなければと考えてしまいました(笑)。科学とガーデニングが好きな方には、特にお勧めします☆