『かな料紙の作り方』1994/6
村上 翠亭 (著), 福田 行雄 (著)
かな料紙についての詳しい解説とともに、その作り方を惜しみなく紹介してくれる本です。
「料紙」とは、美しく装飾された紙のことで、王朝美術の一つとして今もその美しさを保有し、私たちの目を楽しませてくれます。そして「かな料紙」とは、「かな文字を書くために作られた紙」で、「絵の具、金銀箔、文様などの装飾を施された美しい料紙」の数々は、本当に綺麗で、文字が書かれていなくても、そのままで美術品としての価値があるようにすら感じます。
この本は冒頭で、高岩寺(巣鴨・とげぬき地蔵)の欄間裏や二枚折の一双屏風など、実際に使われている大型の美しい料紙や、古今和歌集が書かれた「かな料紙」をカラー写真で見せてくれて、その繊細な美しさに、まさに「これぞ日本の美」そのものと感動を覚えました。
ところがこの雅な王朝芸術の「かな料紙」の技法はいったん途切れてしまったようで、「料紙づくりの技法は、平安時代以来のものが今日までそのまま伝えられているわけではありません。従って、料紙制作法には「絶対にこうだ」と断定できるものは存在しないのです。」なのだとか。
それでも、この本では、書家の村上さんと料紙作家の福田さんが、古筆に見られる料紙加工技法を読み解いて、受け継ぎ・開拓してきた技法の一端を教えてくれます。
料紙づくりは、まず紙の準備から始まりますが、ほとんど「鳥の子紙」を使うそうです。そして、その加工法として、次のものを手順の写真つきで詳しく解説してくれます。
1)どうさ引き
2)染め紙(紙を染める)
3)箔加工
4)雲母ブリ(雲母砂子を撒く)
5)から紙
6)墨流し
7)継ぎ紙
8)料紙の最終仕上げ(ローラーがけ、ずりがけ)
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これらの技法は、さまざまな試行錯誤を経て苦労して開拓なさったのだと思いますが、この本では、その手順を惜しみなくカラー写真つきで詳しく公開してくれています。ところどころに国宝のかな料紙作品の写真もあって、本当に読み応えがあります。
また『平家納経』『源氏物語絵巻』などの王朝の古美術(料紙)の再現に力を尽くした田中親美さん(福田さんの祖父)の伝記や仕事に関する記事もあって、古美術を再現するという仕事がどういうものかを垣間見ることも出来て、とても興味深かったです。
しかも後半では、なんと「やさしい料紙づくり」として、料紙づくりの道具の紹介や、基本的な作成方法まで詳しく教えてもらえます。すべて画材店で手に入れられるそうですが、金銀箔、礬砂(どうさ)、鹿膠(にかわ)、生明礬(みょうばん)などが必要なので……それほど簡単ではないかも……(汗)。でも紅葉を型に使って「ぼかし染め」した葉書は、とても繊細で美しくて、こんな紙を自分で作ることができたら、本当に素敵だなーと思います。
そして巻末には「料紙の話」として、和紙の原料や製法、料紙の歴史など、日本の紙に関するさまざまな知識も掲載されていました。
「和紙」はユネスコ無形遺産に登録されるほど世界的にその価値が認められていますが、これからも、その技術がずーーと受け継がれていって欲しいと願っています。
そして、この本は内容がとても充実しているので、確実に、その一端を担うものとなることでしょう。この本も、いつまでも受け継がれていって欲しいと思います。とても素晴らしい本です。ぜひ読んでみてください。