『「協力」の生命全史: 進化と淘汰がもたらした集団の力学』2023/6/28
ニコラ・ライハニ (著), 藤原 多伽夫 (翻訳)
「協力」という言葉を聞くと、かたい握手や楽しいチームワークを思い浮かべてしまいがちですが、協力というのはそれよりはるかに奥深いものだそうです。私たちの暮らしのあらゆる側面に関わる「協力」はヒトが備えた強大な能力で、ヒトか生き延び繁栄してきた理由でもある……「協力」について深く考察している本で、主な内容は次の通りです。
第1部 「自己」と「他者」ができるまで
第1章 協力を推し進めるもの
第2章 個体の出現
第3章 体のなかの裏切り者
第2部 家族のかたち
第4章 育児をするのは父親か母親か
第5章 働き者の親と怠け者の親
第6章 人類の家族のあり方
第7章 助け合い、教え合う動物たち
第8章 長生きの理由
第9章 家族内の争い
第3部 利他主義の謎
第10章 協力の社会的ジレンマ
第11章 罪と協力
第12章 見栄の張り合い
第13章 評判をめぐる綱渡り
第4部 協力に依存するサル
第14章 他人と比較することへの執着
第15章 連携と反乱
第16章 パラノイアと陰謀論
第17章 平等主義と独裁制
第18章 協力がもたらす代償
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社会性の高い昆虫のミツバチやアリのコロニーが「超個体」のように振る舞うことは知っていましたが、なんと私たちの免疫系と類似した仕組みをもつものもいるそうです。例えば細胞が突然変異や衰えの兆候を示すと「アポトーシス」が起こりますが、アリも感染すると、同じような振る舞い(自ら巣から出て隔離した場所で死ぬ)をするのだとか。それだけでなく、なんと巣が壊れたときには、自ら爆発して巣の壁に出来た穴をふさぐアリすらいるそうです……。アリのコロニーは、本当に「多細胞生物」のようですね……。
とても興味深かったのが「第15章 連携と反乱」。少数のリーダーと奴隷的な扱いの船員で構成されていた商船では、反乱がおこりがちだったそうです。その一方で、意外にも海賊船は、商船に比べると穏やかで統率をとりやすかったのだとか。実は、「海賊船は多くの乗組員に権限を与えることで反乱の問題を解決」していたようです。
「(前略)民主主義、権力の分立、正式かつ正当な憲法という三つの土台を設けたことが、海賊船の平和を保つ一助となった。それは商船における力ずくの独裁支配ではなし得なかったことだ。」
……意外ですね!
また、考えさせられたのが、「第17章 平等主義と独裁制」。意外なことに奴隷船でも反乱がほとんど起きなかったのですが、その理由は……
「(前略)数が多いほど力が増すというのが私たちの知識ではあるが、じつは船に乗せる奴隷の数を増やすと、反乱がおきやすくなるどころか起きにくくなるのだ。(中略)人数が多いと反乱に加わった一人一人が反乱の成功率を上げる度合いごくわずかだ。一方で、反乱の共謀者として発見される代償は、人数にかかわらず大きいままだ。(中略)集団の規模が小さければ、一人一人が反乱の成功や失敗に果たす役割が大きくなるため、反乱に貢献したいという動機が高まる。小さな集団ではまた、一人一人が他者の貢献度を監視することが容易になり、参加していないほかのメンバーに肩身の狭い思いをさせ、彼らを説得しやすくなる。」
……うーん、なるほど……。人間社会は複雑なパワーバランスで成り立っているんですね……。
この他にも「父親と母親は子育てを相手により多くさせようとする」とか、「母親と胎児は栄養分をめぐって争う」とか、「協力」をめぐる、さまざまな実態を知ることが出来ました。
認知能力が高い人間は、地球上でもっとも協力的な種だそうですが、もちろん無条件に協力するわけではなく、フリーライダー問題やえこひいきなどもあります。社会をうまく動かすには、国家の規制をうまく制定する必要があるそうです。最終章の「第18章 協力がもたらす代償」では、次のように書いてありました。
「(前略)国家は個人が他人から金品をだまし取る能力を制限する規則や、相互に恩恵をもたらす取引を(だいたいにおいて)促進する規則を施行することによって、核となる集団を越えたやり取りをさらに支援することができる。うまく機能している国家は、基本的ニーズを保障し、相互の取引を促進する規則を整備することにより、個人が身の回りの道徳的配慮の輪を広げることができ、普遍主義の中立的な協力の規範を認めることができるようになる。機能している国家、そして国家が制定した制度は現代の民主主義を築く礎である。」
そして……
「私たちが直面している世界規模の問題に取り組めるという希望を持つためには、こうした能力を駆使して、私利や短期的な視点ではなく、協力や長期的な視点を促進する効果的な制度(規則、合意、優遇措置)を設ける必要がある。ヒトはよりよい解決策を予測でき、いまより明るい世界を思い描くことができるし、人々が協力する気にさせる社会のルールを構築することができる。」
……人間も生物である以上、誰もが「自分勝手」な側面を持っているのが当然で、誰かがズルをすると周囲の人々もズルへと進んでいきがちですが、その一方で人間は、お互いに「協力しあう」ことも得意です。みんなが進んで「協力」しあえる状況を作り出すためには、社会に害を及ぼすことが損になるようなルールを制定するなど、みんながより幸福になれる明るい未来を作っていける「仕組み」作りが必要なのでしょう。
『「協力」の生命全史: 進化と淘汰がもたらした集団の力学』……生物や人間の多くの「協力」事例を知ることで、「協力」について深く考えることが出来る本でした。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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