『「超」創造法 生成AIで知的活動はどう変わる? (幻冬舎新書 705)』2023/9/27
野口 悠紀雄 (著)
長年アイディアを生み出す手法を蓄積してきた野口さんが、生成AIを導入・実験して、真に効果がある使い方を発見。生成AIという優秀な助手を得て、さらにバージョンアップした最強のアイディア創造法を公開してくれる本です。
知の巨人・野口さんの生成AIへの基本的態度は、次のようなものでした。
「(前略)対話型生成AIの能力は、実は非常に限られています。他方、いくつかの機能に関しては、きわめて優れたパフォーマンスを発揮します。
したがって、対話型AIの得意なことと不得意なことを正確に理解することが、きわめて重要です。(中略)
第1に必要なのは、対話型AIが出力する情報が正しいとは限らないと認識することです。(中略)
利用者への注意としては、「生成AIの出力は、とくに事実やデータに関して、基本的に信頼できません。したがって、絶対にそれに依存してはなりません。」と書くべきでしょう。
そして、この警告文を目につかぬところに出すのではなく、誰の目にもとまるように出すべきです。(中略)
事実やデータに関する情報を入手するには、従来型の検索エンジンや印刷物に依存することが最善の選択です。」
……要するに、最近、その有能さが注目を集めている生成AIは、確かに有能だが危険性や限界もあり、それを正しく把握した上で活用していきましょうと言っています。
私もこの意見に賛成で、とくに「生成AIの出力は、とくに事実やデータに関して、基本的に信頼できません。したがって、絶対にそれに依存してはなりません。」という注意書きは、生成AIの出力に「併記」して欲しいと思います。というのも、私たちには「コンピュータの出してくる事実やデータは正しい」という「常識」があるので、「生成AIは、ネットの「正しい」統計データを踏まえた上で、総合的に判断した「正しい」答えを返しているのだ」と考えがちだからです。
野口さんもこの危険性を懸念しているようで、次のようなことが書いてありました。
・(ChatGPTは)「同じ質問に対しても、時間をおいて問い直すと、正反対の答えが返ってくることがあります。ですから、出力された結果の内容を信じてはいけません。健康に関する質問には、十分に注意が必要です。間違った答えを信用して行動すれば、命にかかわりかねません。」
・「ChatGPTは創造的な活動ができないのです。新しいアイディアを生み出すこともできません。できるのは、ウェブのどこかにあるアイディアの寄せ集めにすぎません。しかも、多くの場合、その結果は凡庸です。過度な期待は禁物です。」
またこの他にも、プロンプトに書いた文で企業機密やプライバシー情報などが漏れる危険性があることも指摘されていました。
でも対話型AIは、クリエイティブな仕事の補助としては大いに活用できるようで、野口さんはご自身の経験から、次のように使うことを勧めています。
1)翻訳(信頼できると分かっている情報を提示して)
2)要約(信頼できると分かっている情報を提示して)
3)校正(信頼できると分かっている情報を提示して)
4)資料やデータの「ありか」を教えてもらうこと
……ただし、この4)については盲信してはいけないそうです。野口さんの経験によると、対話型AIが変なサイトを紹介してきたので、そのサイトにアクセスしてみたら、「危険」「ここにアクセスするとパスワードを盗まれるかもしれない」という注意書きが現れたことがあるそうで……このエピソードを読んで、対話型AIは、今後、詐欺サイトへの誘導にも利用されるかもしれないなーと不安になってしまいました。
また3)の校正に関しても、「AIは高い校正能力を発揮するが、プロンプトの書き方には注意が必要」として次の2つのプロンプトが例示されていました。
1)つぎの文章中の誤記や文法上の誤りなどを修正してください
2)つぎの文章中の誤記や文法上の誤りなどを指摘してください
……どちらもあまり変わらないように見えますが、1)だと勝手に直されて、執筆者の意図と異なる文章になってしまう危険があるので、2)を使うことを勧めています。なるほど……生成AIの仕事には、どんな場合でも「ファクトチェック」する必要があるんですね……。
そしてこの後は、生成AIも活用した「アイディアの生み出し方」が紹介されていましたが……基本的には「周辺作業の能率を上げることによって、アイディアを考える時間を確保する」という感じで、実際の「アイデアの生み出し方」は、ほぼ従来の方法と同じ(材料を頭に詰め込み、いつも考えていると、偶然にアイディアが生まれる)ようです。
その後の、生成AIと教育や仕事との関係に関する考察も、納得がいく内容でとても参考になりました。
『「超」創造法 生成AIで知的活動はどう変わる? 』……生成AIとの付きあい方を、分かりやすく具体的に教えてくれる方法で、とても参考になりました。生成AIは今後私たちの社会にどんどん普及していくと予想されるので、みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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