『演奏者のための はじめてのアレクサンダー・テクニーク ~からだを使うのが楽になる~』2014/2/22
石井 ゆりこ (著)

 ジュリアード音楽院をはじめ、海外の名門音大でも取り入れられている「無理のないからだの使い方により自分の可能性を大きく広げるメソッド」アレクサンダー・テクニークを分かりやすく解説してくれる本です。
 音楽の世界で特に注目されているアレクサンダー・テクニークですが、実は治療法でもリラックス法でもなく、楽器の演奏法でもありません。19世紀に、オーストラリア人俳優のアレクサンダーさんが発見した方法です。
 シェイクスピア劇の朗読をしていたアレクサンダーさんは、舞台にあがると声が枯れたり出なくなったりすることに悩まされていたのですが、その原因は自分の喉の構造にあるのではなく、使い方に問題があるらしいと思い至りました。
 解決のための試行錯誤を続けるうちに、声を出すという機能を取り戻すためには、発声器官だけを変えようとするのではなく、体全体をひとつのものとしてとらえ、その使い方を見直す必要があると気づいたそうです。
 そこで彼は「自分の使い方」をよくするための方法=アレクサンダー・テクニークを発見しました。気がつかないうちに無理をかけていた「自分の使い方」に気づき、それを手放していけば、人間の本来の自然な動きが出て来るだけでなく、健康や楽器の音色を改善することが出来るそうです。
 アレクサンダー・テクニークで重要なのは次の三つの原理です。
・プライマリー・コントロール(頭と背骨全体の機能を邪魔していなければ、その人全体がうまくはたらく)
・抑制すること(ついやってしまう、自分自身を邪魔する動きを防ぐこと。間(ま)をとること)
・方向性を思うこと(活動に入ろうとする前に、自分全体のはたらきにとって建設的なプロセスを思うこと)
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「全体性」というのは、アレクサンダー・テクニークの重要なキーワードの一つで、「心」と「体」は、本来ひとつのものなので、メンタルの課題と心を切り離さないで考えるべきなのだそうです。……どうやらアレクサンダー・テクニークは、なんとなく「瞑想」に近い精神性を感じさせるテクニークのようで、具体的に「このように演奏しなさい」と奏法を教えてくれるわけではなく、なんとなくボンヤリ(こういう感じなのかな……)と分かる(感じる)もののようでした(汗)。
 とは言うものの、「第3章 楽器を構える動き、演奏するときの動き」では、具体的な楽器別に簡単なアドバイスもあります。例えば「ピアノ・鍵盤楽器を弾くときの動き」では、「鍵盤をたたくときは、指の力だけでたたこうとすると、指を固めることになりがちです。「ひじから先全体が鍵盤に届いて鍵盤をたたく」と思うとどうでしょうか?」のような、かなり具体的なイメージも与えてくれます。その他、管楽器(クラリネット、フルート)や、弦楽器、ギター、ドラム・パーカッション、呼吸と発声についてのアドバイスも掲載されていました(どれもかなり精神的心得のようなアドバイスが多いという印象でしたが……)。
 全体として大切にすべきなのは、1)出したい音のイメージと意図を明確にする、2)体のシステムのはたらきを邪魔しない、ことのようです。
 個人的には、「あがってしまうとき」のアドバイス3「音楽の演奏の意図を明確にしてみましょう」という項目で、「目の前にいる人にその曲を聞かせたい」などとともに、「死者に捧げる音楽」があったのを見て、(あ、これいいな)と感じました。目の前にいる人に聞かせようと思うと、あがってしまいますが、「死者に捧げる」と思うと、なんか厳粛な感じもあるし、より神妙・崇高な気持ちで演奏できそうな気がします。
 楽器を演奏する人にとって、参考になる考え方が多数掲載されている本でした。演奏していると肩がこるようになった・喉が痛くなるようになった……などの不調を感じている方は、この本を読んで参考にしてみてはいかがでしょうか。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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