『漫画 サピエンス全史 人類の誕生編』2020/11/6
ユヴァル・ノア・ハラリ (著)
かつて地球上には何種ものヒトがいた。その中で、アフリカの片隅でやっと生きていたホモ・サピエンスだけがなぜ繁栄したのか? ……歴史学だけでなく、人類学や考古学、さらにはサイエンスの最新知識も駆使して、人類史をまったく新しいかたちで描き出した世界的ベストセラー『サピエンス全史』を公式漫画化した本の第1弾。「人類の誕生編」です。
……この本はサイズも大きく、価格も1900円+税と高価だったので、『サピエンス全史』全部を漫画化したものと勘違いしてしまったのですが、「人類の誕生編」までの内容で、「小麦」は次回以降になるようでした。最後まで読み切ったら、最後に「次回予告・小麦」があって……表紙を見直したら『サピエンス全史』の脇に「人類の誕生編」と書いてありました……(トホホ)。(なお、この感想を書いている時(2021.05)には、まだ第2弾は出ていません)。
しかも漫画版というので、よくある日本の漫画版自己啓発書のように、ダイナミックな画面構成で描かれた普通の漫画を期待してしまったのですが、これはアメリカン・コミックスのように横にずらずら長方形のコマが並んでいく形式の漫画です。そしてかなりセリフが長くて細かいのです……だから、あまり読みやすくはありませんでした。でも、それだけに、原作の『サピエンス全史』の内容がきちんと盛り込まれている感じがします。原作はとても長いので、内容を簡単に知りたいという方には、とても便利なものだと感じました。
さて、かつては何種類もいた人類の中で、なぜホモ・サピエンスだけが生き残ったのかがこの本のテーマ。それは「神話」を生み出す能力があったことのようです。
ホモ・サピエンスは、そのコミュニケーション能力で無数の他人といろんな形で協力できて、それが繁栄の鍵となったのですが、その成功の決め手が「神話」なのです。
ここで言う「神話」はただの神様物語を言うのではなく、「実体はないが、みんなが共通認識できるもの」を指しているのです。例えば「企業」も神話の一種なのだとか。本書の中には、次のような意味のことが書いてありました。
「企業は人々の集合的な想像の産物。法律家の言う「法的虚構」」
「会社を創るのは神々を創るのと同じ(物語を創って、それをみんなに信じさせている)」
「歴史はたいてい1つの大問題を中心に展開していく。つまり、神とか国家とか、あるいは有限会社という物語を大勢の人にどうやって信じさせるかの問題なのだ」
「起業家や法律家はいわば強力な呪術師」
そしてこの「神話」が大きな力を持ち、ホモ・サピエンスの進化をどんどん促すことになるのです。
「虚構が大事なのは、それのおかげで協力しあえるから。人がお金や会社の価値や存在を信じなかったら、国際的な貿易ネットワークは崩壊する。税金を納めなければ教育や医療制度も成り立たない。」
「想像上の現実はみんなが信じている物事のことで、そこが嘘と違う。みんなが信じ続ける限り、それは大きな影響力を持つ。」
「大がかりな協力の土台は神話だから、その神話が変化すれば協力のありかたも簡単に変化する。別の物語を語るだけでいい。」
「認知革命以後のサピエンスは、短期間に行動を修正してニーズの変化に合わせられるようになった。おかげで文化的進化が起こせるようになり遺伝進化の道をのろのろ進む必要がなくなった。」
……なるほど。最近のビジネス書に、「物語(ストーリー)」が大事みたいな記述がやたら多いのは、これを言っているんですね……。このあたりの内容は、とても面白く分かりやすく書いてあって感心させられました。
ちなみにこの「神話」を無条件に信じすぎてはいけないという警告も、小さく書いてありました。
「虚構はただの道具。虚構のために現実の人間を苦しめてはいけない。」
……まったくその通りだと思います。
ところで、ホモ・サピエンスは7万年ほど前に言語能力を獲得して、噂話ができるようになり神話を創ることが出来るようになったのですが……どうやら他種を駆逐する能力まで獲得してしまったのかもしれません。次のようなことも書いてありました。
「7万年ぐらい前、ホモ・サピエンスの集団が2度目のアフリカ脱出をして、全世界からネアンデルタール人や他の人類をみんな追い払った。」
「オーストラリアおよびアメリカでの大量絶滅、またホモ・サピエンスがアフリカ・アジアに広がるにつれて起こったより小規模な絶滅(ホモ属の他種はすべて絶滅している)、さらにキューバなど遠隔の島々に狩猟採集民が定住したときに起こった絶滅、これらを考えあわせるなら、サピエンス移住の第1波が動物界にとって最大の、それも極めて短期間で起こった生物学的大災害だった。」
ちなみに、本書にも書いてありましたが、他の人類、ネアンデルタール人などは完全に絶滅したとは言い切れないようで、現代人(ホモ・サピエンス)のDNAには旧人類のものが入っているそうです。((ヨーロッパ人とアジア人のDNAのうち2%はネアンデルタール人由来。メラネシア人とオーストラリアのアボリジニには最高で6%のDNAがデニソワ人由来。)
人類史をまったく新しいかたちで描き出した世界的ベストセラー『サピエンス全史』のうちの「人類の誕生編」を、アメリカン・コミックスのような形で楽しく読むことが出来る本でした。読みやすいというほどではありませんでしたが(汗)、突然TVの「バラエティ番組」風になるなど漫画ならではのギャグやユーモアも入っていて、それなりに楽しく読み進められました。とりわけ最後の「大陸をまたにかける連続殺人犯」が、とても面白かったです(内容は考えさせられる(反省させられる)ものでしたが……)。
原作には手を出しにくいけど、ベストセラー『サピエンス全史』の内容は知りたいと思っている方は、ぜひ読んでみてください。
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