『ブロックチェーンと法-〈暗号の法〉がもたらすコードの支配』2020/11/26
プリマヴェラ・デ・フィリッピ (著), アーロン・ライト (著), & 6 その他
ブロックチェーンの特徴や基礎知識を説明してくれた上で、法との関係を深く探究している本で、主な内容は以下の通りです。
Part1 ブロックチェーンのテクノロジー
Chapter1 ブロックチェーン、ビットコイン、非中央集権型コンピュータ・プラットフォーム
Chapter2 ブロックチェーンの特徴
Part2 ブロックチェーンと金融・契約
Chapter3 デジタル通貨と分散型決済システム
Chapter4 法的契約としてのスマートコントラクト
Chapter5 スマート証券・デリバティブ
Part3 ブロックチェーンと情報システム
Chapter6 耐改竄性のある、真正で、信頼のできるデータ
Chapter7 復元力と耐改竄性のある情報システム
Part 4 組織と自動化
Chapter8 組織の未来
Chapter9 自律分散型組織
Chapter10 ブロックチェーン・オブ・シングス
Part5 分散型ブロックチェーン・ベースのシステムと規制
Chapter11 規制の態様
Chapter12 法としてのコード
結論
*
ビットコインなどのデジタル通貨を支えるテクノロジーとして注目され、国のインフラから企業活動、さらには私たちの日常生活にいたるまで広範な利活用が期待されている「ブロックチェーン(分散型台帳技術)」。高度な復元力を有し、透明性がありながら改ざんに強いという性質から、自動的・自律的に執行されるスマートコントラクトや、国境を越えた迅速な決済や金融商品売買の円滑化を媒介者なしで実現する、社会的・経済的活動の新たなインフラとなることが期待されています。
でもブロックチェーン技術を応用したサービスや活動は、既存の法律や規制に必ずしも適合するわけではなく、国境を越えた犯罪行為にも悪用されることも容易に予想されますし、さらには、国家を超えた「アルゴクラシー」すなわちアルゴリズムによる支配をどう規制するかという、国家の統治システムにかかわる本質的な問題まであるそうです。
ブロックチェーンは「自律分散型」システムで、中核になるものを必要としないので、問題が起きた時に誰が責任を負うのかが不明確です。また「匿名」取引を可能にするので、取引の実態を把握するのも困難……そういう意味で、政府の規制や管理が難しいと考えられているのです。
でもフィリッピさんたちは、ブロックチェーンを活用したシステムであっても、政府の法的規制や統制はある程度可能だと考えているようです。なぜなら、一見、仮想空間で動いているように思えるブロックチェーンにも、現実との接点(哀れな点)があり、そこに対して規制などの影響力行使が出来るからです。その哀れな点とは、エンドユーザ、トランスポート・レイヤー、情報媒介者、ブロックチェーン媒介者、マイナーやノード、スマートコントラクトの開発者などだそうです。
この本は、今後、私たちの社会的インフラの中核になっていくことが予想されるブロックチェーンの問題(特に法との関わり)について、総合的に考察していて、とても参考になりました。
「結局のところ、法的かつ商業的な取り決めに関しては、ブロックチェーンは合法な活動と非合法な活動の両方を支援する。その一方で、ブロックチェーンは、自律的に稼働し、監視コストと機会主義的行動のリスクを減少させるデジタル合意の新しい形式を構築し、支援する――それどころか、マシン・トゥ・マシンと取引やAI作成契約の時代の先駆けとなるかもしれない。同時に、悪意ある当事者が、デジタル通貨と併用してこのテクノロジーを用い、追跡困難で既存の法や規制を意図的にかいくぐる違法な経済的取り決めを構築するかもしれない。」
……ブロックチェーンには、光と闇の側面が両方とも備わっているのです。
その他にも、「AI+ブロックチェーン(スマートコントラクト)」が、まるで人のように業務から集金まで行うときの法的責任はどうなるかとか、「IoT+ブロックチェーン」で作業から集金(税金の支払いも!)まで行う場合はどう規制すればいいのかとか、興味深い話が満載! 今後、ブロックチェーンを仕事で利用しようと考えている方には、必見の記述ばかりだと思います。前半のブロックチェーンの解説部分も、とても具体的で分かりやすかったです。
ブロックチェーンには多くの利点(自律性・透明性・復元性・耐改ざん性・確実な履行)があると同時に、多くの欠点(匿名性がありながら、すべての歴史がたどれてしまうプライバシー問題・いったん実行を始めたら取り消せない・悪用の可能性がある)もあり、政府が法規制を行う時にも、この両面のバランスを取らないと、さまざまな問題を引き起こしてしまいます(規制しすぎるとイノベーションを阻害する。規制がないと悪用を防げない、など)。これらの多様な要素を踏まえながら、社会全体として、うまく利用していくことを、政府とともに私たちみんなが考えていくべきなのでしょう。
かなり専門的な内容もあって、読むのは大変でしたが、とても勉強になる本なので、ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
* * *
なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
<Amazon商品リンク>