『化石ドラマチック』2020/5/17
土屋健 (著), 芝原暁彦 (監修), ツク之助 (イラスト)
化石にまつわる奇跡のエピソードの数々を、ドラマチックに紹介してくれる本です。
子どもの頃から考古学や化石が好きだったので、この本にはすごく興味津々でした。何にでも興味を持ってしまう私ですが(汗)、本当のところは「推理好き」なのだと思います。そして考古学や天文学は、「正解」がなかなか出せないもので、いくらでも妄想を膨らませることが出来るという素晴らしい特徴があり……だからこの本も、わくわくしながら読み始めました。
ページを開くと、いきなり「化石ドラマチック・アワード」!
行進する三葉虫とか、戦闘中のプロトケラトプスとヴェロキラプトル……うわー、こんな凄い化石があったんだ! もう、このページだけで大興奮! この「化石ドラマチック・アワード」は、チームワーク部門、アクション部門、コメディ部門、うっかり部門、ビューティー部門、そっくり部門、ファビラス部門の7部門の珍しい貴重なドラマチック化石写真が集められていて、凄く見ごたえがあります。
でも……興奮はここが最高潮でした……この後の本文の方には、何故か写真がほとんど出てきません。内容は面白くて興味深いし、イラストもいいのですが……やっぱりすべての化石にイラストではなく本物の写真が欲しかったなーと感じました。博物館で本物を見て欲しいから写真をあえて掲載しなかったのかもしれませんが、本物をどこで見られるのかも書いてないのです。
その点が少し残念でしたが、奇跡の化石を調査することで明らかになったドラマをたくさん知ることが出来て、とても楽しめました。
「そもそも化石に残ることがドラマチックなのだ!」そうです。自然死した生物は化石になりにくいのだとか。寿命で死ぬということは、そこが普通の場所だということなので、死骸を肉食動物に食い荒らされてしまうからです。化石になるには「すぐに地中に埋もれて」、「骨も食べ尽くすバクテリアなどが存在せず」、「火山や地殻変動で破壊されず」、「地表に露出して、風化する前に人間に見つけられる」など、いくつもの条件があるのです。
ただでさえ希少な存在の化石がドラマチックな状況を見せてくれる、そんな超貴重な化石の物語をたくさん読むことが出来ました。
2頭の恐竜が戦っているような姿のまま化石になったり、出産途中に頭だけ外にようやく出した状態で化石になったり……こういう化石は、その生物の生態を生々しく物語ってくれるのです。
この「出産途中に頭だけ外にようやく出した状態で化石になった」のは魚竜類のチャオフサウルス。母チャオフサウルスが最初の子を産んだものの、その子はほどなく死亡。2番目の子は難産で母子ともに死亡。3番目の子は母の胎内で死亡した状態で化石化していました。これはチャオフサウルスの出産形式が「子を頭から外に出す」ものだったことを示していて、初期の魚竜類に陸上生活の名残りがあったことを意味しているのだそうです。実は、進化した魚竜類は、子を尾から先に母体から出すことが知られているのだとか。……そうだったんだ。(水中出産では、頭から出ると、子どもが窒息死するリスクが高まるそうです。)
また、丸太とともに旅したセイロクリヌス(ウミユリの一つ)の話にも驚かされました。実はウミユリというのは、動物(棘皮動物)なのだそうです(植物かと勘違いしていました……恥)。
このセイロクリヌスの化石は、丸太の化石に密着して見つかることが多いのだとか。それでドイツの地質学者のハウデさんが、次のような仮説を発表したそうです。
「セイロクリヌスは他のウミユリ類のように海底でからだを固定していたのではなく、海に浮かぶ丸太にはりついて、丸太とともに海流に乗って旅していたのではないか。」
セイロクリヌスの主食は海中に浮かぶ有機物、丸太が大きく揺れてくれれば、自分自身が動かなくても、広い範囲の有機物を捕まえることが出来ます。……でも、この旅は長くは続けられないそうです。最初の頃は小さくても、やがて成長し、大きくなり、重くなる……すると丸太は沈み……その丸太から起き上がれないセイロクリヌスは、その周りで死ぬことになり……そのまま化石になった……なんだか、お気楽な寄生生物の末路(自業自得)って感じの、考えさせられる生き方ですね……。
この他にも、大阪大学構内から発見された全長7.7メートルもの大型ワニ(マチカネワニ)とか、2メートルものウミサソリとか、そんな奴らとは絶対に出会いたくない(でも化石なら見てみたい)生き物など、興味深い話がいっぱいありました。化石に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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