『萩尾望都 作画のひみつ (とんぼの本)』2020/4/24
萩尾 望都 (著), 芸術新潮編集部 (編集)
不老不死の美少年たちを描いた『ポーの一族』から歴史大作『王妃マルゴ』など、繊細な画と豊かな文学性でマンガ界に新たな地平を拓いた萩尾望都さんの世界を、たっぷり味わえる本で、内容は次の通りです☆
グラフ オール原画!至福の名作劇場
インタビュー 「少女マンガ」の向こうへ…その作画術のひみつ
アトリエ訪問―あの名作たちが生まれたところ
年譜 読んで、描いて、旅をして モーさま選り抜きライフ・ストーリー
特別公開 アイデアがかたちになる瞬間!クロッキー帳はイメージの宝石箱
寄稿 神域(小野不由美)
解説 年代別に見る画風の変遷 軽やかに、しなやかに進化し続けるひと
コラム
付録 あなたのお気に入りは誰?タイプ別キャラクター名鑑
萩尾望都さんと言ったらなんといっても永遠の美少年たち。美しい吸血鬼たちの『ポーの一族』はもちろんのこと、美少年の謎の自殺から始まる『トーマの心臓』の美少年だらけのギムナジウム(中高一貫校)。「ギムナジウム」なんて言葉を知ったのは、この漫画だったなーと懐かしくなってしまいました。
この本は、萩尾望都さんのファンの方には間違いなく「お宝本」になると思います。
まず、冒頭の「オール原画! 至福の名作劇場」では、『ポーの一族』シリーズ、『トーマの心臓』、『11人いる!』、『マージナル』、『王妃マルゴ』などの美麗なイラスト集が! 美し過ぎて、くらくらしそうな感じ。
そして続く「作画術のひみつ」では、萩尾さんに影響を与えたという美術作品を見ることが出来ます。『ポーの一族』につながったという絵画「ランプトンの肖像」は、赤い服を着た黒髪の美少年が腰かけている肖像画なのですが、これが本当に物凄い美少年。こんな美少年が19世紀に生きていたのか……。
「50年、100年といった長い時間を隔ててその絵と対峙する場合、描かれた人も描いた人も、もうこの世にいない。そう考えると、肖像画って、ある意味タイムマシーンのようで面白い。なので、ちょくちょくモティーフに使っています。」と萩尾さんは語っています。
素晴らしい作品って、長い間鑑賞され続けるだけでなく、未来の世代の人々にインスピレーションを与えることで、新しい作品を生み出させる力があるんですね。もちろん萩尾さんの作品にも同じ力を感じます。
このインタビューには、漫画を描く人にとって参考になる話がたくさんありました。例えば、表情を描くときに、一番注意しているのは、目だそうです。
「(前略)人の表情は目で半分くらい決まります。あとは、コマ割りと表情の変化にズレがないよう気を配っています。そうでないと、読み手の目線がうまく流れなくなってしまいますから。必ず下書きを見直して、微調整するようにしています。あるひとつのコマが孤立してしまわないよう、前のコマ、後のコマとシンクロさせながら描くことも大切です。」
そして全体の流れを踏まえた上で、1コマ1コマを描いているのだとか。
「(前略)物語の流れは、読み手の「呼吸」にもかかわってきますから。呼吸のリズムと、コマ割りやセリフのリズムを合わせなければなりません。たとえば、物語に急な展開があった後は、読み手にいったん一息ついてもらう、といった塩梅が必要になってくる。ある場面が唐突に感じられないように会話の間を取ったり、逆に間延びしないように場面をカットするといった采配をしながら、コマを割っていきます。心地の良い音楽のように流れるコマ割りと構図になるように……。」
さらに、「アイデアがかたちになる瞬間!」として、萩尾さんのスケッチやメモがたくさん書き込まれているクロッキー帳のページや、「年代別に見る画風の変遷」として、実際の作品の一部など……これを見ると、昔、初めて読んだときのどきどきする気持ちを思い出せて、すごく懐かしいです。とても美しい絵ばかりで、眺めているだけで美観が研ぎ澄まされていきそう……。
萩尾望都さんの作品世界を堪能できるだけでなく、作画の秘密を垣間見ることが出来る素敵な本でした。ファンの方はもちろん、漫画を描くのが好きな方にもお勧めです☆
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