『地方創生大全』2016/10/7
木下 斉 (著)

 地方が抱える問題を「ネタ」「モノ」「ヒト」「カネ」「組織」の5つに体系化し、28の「問題の構造」を明らかにした上で、明日から取り組める具体的な「再生の方法」を提言してくれる本です。
 例えば「特産品」。地方の駅などでお土産のお菓子を選んでいる時、「あれ、なんかこのお菓子、見覚えがある……」と感じることが多くなったような気がします。他の地方の有名なお菓子と、色や味が少し違うだけの「工場で大量生産された商品」のような……こういうお土産は味が予想できるので、試食しなくても「それなりに美味しい」ことは想像できますが、すごく安直な「特産品」のようで残念になります。みんな失敗したくないばかりに、結果的に「日本中が同じようなプロセスで汎用品をつくりだしてしまう」……この本の指摘に同意してしまいました。
 そして、この本の素晴らしいところは、「克服した例」も具体的に教えてくれること。例えば「特産品」の項目では、2014年に高知の生産者との連携でつくった「みょうがピクルス」の事例紹介がありました。この商品は、八百屋さんの店舗で90人のお客さまモニターを募集して、試作品を試食してもらったそうです。それを通じて商品を決定。その後、各店舗が「販売数を約束」して生産地に発注、売れ行きに応じて追加発注する仕組みを作ったのだとか。……なるほど、これは実際に「美味しい特産品」を作り出すのに、とても有効な仕組みに思えました。
 また、「道の駅」をうまく活用していないという指摘もありました。
「道の駅は「休憩機能」「情報発信機能」「地域の連携機能」という3要素を持つことが期待されています。とはいえ、実体としては、ほとんどがロードサイドの商業施設として地域の商品を販売したり、観光拠点にしたりという、地域活性化効果を狙っているものが主となっています。」
 道の駅は行政主体で運営されることが多く、「ズサンな経営計画」や「過剰投資」「受け身の姿勢」という歪みが生じやすいのだとか。
 確かに……どこにでもあるようなお土産品をただ並べているだけの道の駅は、あまりうまくいっているようには見えず、すごくもったいない使い方をしているな、と感じる所もあります。でも「道の駅」自体は、すごくいい発想のものだし、運営する自治体にとっても、今よりも高価値な「使える場所」に出来るものだと思います。
 なぜならその自治体に「道の駅」があるだけで、遠方からくる一般観光客に、ドライブの途中で「とりあえず立ち寄ってみようか」という動機付けが生まれるのです。道の駅マップは広く配布されていますし、地図にも記載されているので、観光中の食事やトイレのためにそこを利用する前提で旅行計画を立てる人は増えていると思います。私自身も、道の駅にあるレストランだと、知らない名前のレストランでも安心して食事ができますし、「その地ならではの特産品を使ったメニューの食事」を食べたいと思ってしまいます。
 また24時間使える水道とトイレがある、という強みは、観光拠点としてだけでなく、地元住民の防災拠点としても使えるのではないでしょうか。駐車場も大きいので、いざというとき物資を配布するテントや給水車を置くことも出来ます。「道の駅は重荷なだけ」と感じている自治体があるならば、今後は「防災拠点」や「公民館」としての活用も考えてみてはいかがでしょうか(もしかしたら、ただ「並べているだけ」の「どこにでもありそうなお土産物」も防災用の備蓄食品としてポジティブに考えることも出来るかも……)。
 さて、「地域での事業で心がけるべきこと」には、次の3つがあるそうです。
1)事業で達成しようとしている目標を一つに絞ること
2)小さく積み上げ、売上の成長とともに投資規模を大きくしていくこと
3)事業を組み立て、営業できる人間が経営し、資金調達に行政は関与しないこと
 ……個人的には、「地方創生」というと、やっぱり少なくとも初期投資には「補助金」を活用するものだろう……と甘いことを考えていましたが、それではダメだということを教えてくれる本でした(汗)。地方創生でも、民間企業の経営と同様、自らの力で行わなければ、長続きしないようです。
 この本は、自らの力で「地方創生」するにはどうしたらいいかを、とても現実的な問題意識・手法で教えてくれて、とても参考になりました。「ネタ」「モノ」「ヒト」「カネ」「組織」の5章に分けて具体的に説明してくれるだけでなく、各章の最後には、「チェックシート」(例えば、「ネタ」の場合は「ネタの選び方危険度チェックシート」)がありますので、自分の担当する計画の危険度などをチェックすることも出来ます。「地方創生」を真剣に考えている方は、ぜひ一度、読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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