『アラスカ永遠なる生命(いのち)』2003/5
星野 道夫
アラスカの大自然の中で、写真家の星野さんが出会い撮影した数多くの動物たちや花々写真とエッセイを選りすぐった珠玉の写文集です。
今回の本は、アラスカの「動物と花」がメイン。カリブーの美しさや躍動感、時にはユーモラスにも可愛くも見えるクマ、ヘラジカやムースにアカリス、ザトウクジラ、ゴマフアザラシ、ラッコ、そしてハクトウワシ……アラスカに生きる多くの生命たちの生き生きとした一瞬が、その時の空気感とともに見事に捉えられています。
これらの写真を撮るために、どれほどの苦労があったのか……アラスカに渡って20年、星野さんが撮り続けた珠玉の写真に心を奪われます。
そして写真に添えられている文章もまた素晴らしい。撮ったときのエピソードやアラスカの厳しい自然環境の描写を読みながら写真を眺めると、空気の冷たさや森の匂いまでも感じられそう……星野さんの自然を愛する気持ちが、臨場感を伴ってひしひしと伝わってくるのです。
また巻末には「動物解説」もあり、本文に登場した動物の生態、生息状況などに関するデータも知ることが出来ました。写真も文章もデータも、創作のための参考資料として活用できそうな気がします。
残念ながら星野さんは、1996年8月に、ロシア、カムチャッカ半島クリル湖畔で、ヒグマに襲われ急逝されてしまいました。この本には、何故かそのことを予感させるような文章もあります。
「五年前、アラスカで死んだ友人のカメラマンの灰を、一本のトウヒの木の下に仲間で埋めたことがある。そこはマッキンレー山に近い、イグルーバレイと呼ばれる谷だった。灰を埋めた小さな丘から、トウヒの森が見渡せた。彼が、一番好きな場所だった。
この世に生きるすべてのものは、いつか土に返り、また旅が始まる。有機物と無機物、生きるものと死すものとの境は、いったいどこにあるのだろう。
いつの日か自分の肉体が滅びた時、私もまた、好きだった場所で土に返りたいと思う。ツンドラの植物にわずかな養分を与え、極北の小さな花を咲かせ、毎年春になれば、カリブーの足音が遠い彼方から聞こえてくる……そんなことを、私は時々考えることがある。」
そして、夜空にオーロラの流れる暗い森の片隅に、小さな赤いテントが暖かく輝いている写真に添えられた言葉。
「人が一生を閉じる瞬間、だれでもあるひとつの強烈な風景を思い出すとしたら、自分はアラスカで見続けたオーロラではないだろうか……。」
星野さんもまた土に返って、新しい旅を始めているのでしょう。
『アラスカ 永遠なる生命』……写真も文章も、なんども読み返したくなる素晴らしい写文集です。ぜひ手に取って眺めてみてください。お勧めです☆
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