『次の震災について本当のことを話してみよう。』2017/11/22
福和 伸夫 (著)
国民の半数が被災者になる可能性がある南海トラフ大地震。それは「来るかもしれない」のではなく「必ず来る」と考えて、防災対策に取り組むべきだということを教えてくれる本です。
関東大震災の火災、阪神・淡路大震災の家屋倒壊、東日本大震災の津波……どれも凄まじい被害をもたらした災害ですが、その三つを同時に経験する可能性があるのだそうです。首都圏を大地震が襲ったら、軟弱な地盤に林立する超高層ビルはいったいどうなってしまうのでしょう? その安全性は十分には検証されていないそうです……。
ところでみなさん、怪獣映画の『シン・ゴジラ』をご覧になりましたか? 実はあの『シン・ゴジラ』の描写は、防災専門家から見ても、かなりリアルなのだそうです。この本の注釈には、次の記述がありました。
「防災対策基本法では、我が国の災害対策に関する事項を網羅的に記しています。この法律の理念に基づいて、政府の防災対策に関する基本的な計画を作成したものが防災基本計画です。『シン・ゴジラ』はこの法律に則って、合法的にゴジラ対応をしていました。」
……そうだったんですか。次に『シン・ゴジラ』を見る時には、「防災」の観点から見てみようと思います。娯楽映画で防災についても学べるなんて……『シン・ゴジラ』、なかなか、やりますね!
この本は防災専門家の方が書かれていますが、他にも興味深い記述が満載です。例えば、「歴史を変えた地震」では、「真田丸」などの大河ドラマに描かれた地震が紹介されていました。大河ドラマに、そんなに地震や災害に関する史実が盛り込まれていたとは気がつきませんでした。
また、すごく参考になったのが「バス停」と防災に関する次の記述。
「私の研究室で2009年に東京、名古屋、大阪の三大都市圏にある3000以上のバス停の名前を調べました。町名などに比べて駅名などは変わることがまれで、特に数が多いバス停は、地元住民になじんだ通称地名がよく使われています。住所の「字」名からとっていることも多く、土地の特性を含んだ地名が多くみられます。
調査の結果、固く締まり、水はけのよい良好地盤のバス停には「山」や「台」「丘」などの漢字が含まれ、地震時に揺れやすく、液状化の恐れもある軟弱地盤には「沢」「池」「沼」などが使われている傾向が分かりました。大都市ではバス停が500メートルに1つはあります。詳細な危険度地図ができます。
それらを地図に落とし込んでみると、標高や過去の地震による震度の大きさなどと地名が見事に対応しました。ハザードマップを重ねると、納得感のある防災地図ができたのです。皆さんも身近なバス停の名前を手始めに周辺の安全点検を始めてみてはいかがでしょうか。」
……なるほど。防災対策をする時や、新居を建てる時などは、近くのバス停名から、地盤のことを想像してみるといいのかもしれません。
そして怖くなったのが、「西三河防災減災連携研究会」の9市に関する次の話。
「最初に各市町の地図を使って、それぞれに都市計画のマスタープランを紹介してもらいました。(中略)その後、各市町のマスタープランを、ジグソーパズルのピースのように組み合わせて、西三河全体の地図をつくってみました。
全体で見ると最悪の計画になっていました。隣同士の市町で矛盾だらけの独りよがりの計画ばかりでした。特に酷かったのは、緊急輸送路が市町の境界でつながっていなかったことです。
市役所と消防や病院、避難所などを結ぶ緊急輸送連絡道路は、高速道路や国道、県道などから隣の市町の道を通る場合があります。災害は市町の境界など関係なく起こるもの。消防や救急は広域的な活動もしているのに、こんな道路でどう動けるのでしょうか。」
……これって、ありがちな話ですよね。もちろん、この「西三河防災減災連携研究会」は改善に向けて動き出していますし、「緊急輸送路などの問題は、今では地方整備局や県も交えて見直しの議論が高まっています。」ということでしたが。
こういう「自分の組織内だけで閉じている防災計画」というのは、実は、どこにでもあるのではないかと思います。福和さんは次のように指摘しています。
「企業はこぞって事業(業務)継続計画(BCP)をつくっています。でも中身を見ると十分な計画ではないことが多くあります。ほとんどの計画が「自分の会社の中」で閉じています。外からの電気や通信や、ガスや、水などが途絶えることを考えていません。もっとダメなのは、本来、BCPは「具合の悪いところを見つけて改善するためのもの」なのに、「社長や株主に報告するため」のきれいなものになっていることです。組織にとって体裁は大事ですが、死命を制する防災については「ホンネ」で語らなければいけません。」
本当にそうですよね。そして行政や企業だけでなく、ひんぱんに自然災害にみまわれる日本に住んでいる以上、私たち一人一人も防災意識を高める必要があるのだと再確認させられました。私自身も、家具の転倒防止をする、防災に備えた備蓄をしておくなどの防災対策を続けたいと思います。
最後に、とても大事なことだと思ったので、この本の「終章」に書かれていたメッセージを紹介させていただきます。
「過去の歴史からみて、南海トラフ地震が将来、絶対に起きることは大前提。「温故知新」で、今後に備えるしかありません。「いつ起こるか分からないから」などと言っているのはただの現実逃避です。できることは身近なところからすぐに始める。起死回生の策なんてありません。一つ一つの対策を足し算していくことが、被害を少しずつ引き算していくことになります。」
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