『ポイント経済圏20年戦争 100兆円ビジネスを巡る五大陣営の死闘』2024/10/16
名古屋和希 (著)

 ポイントの生みの親や関係者への徹底取材を基に、楽天・三菱商事・NTTドコモ・ソフトバンク・三井住友FG、5大経済圏の20年戦史を詳細に描いたもので、主要なプレーヤーたちが実名で登場していて圧巻です。主な内容は次の通りです。
プロローグ 三木谷浩史へのだまし討ち
第一章  Tポイント誕生
60枚のポイントカード /電通マンのアドバイス/慎重論をひっくり返せ/新日石の即断即決 /コンビニを獲得せよ/TSUTAYA不在
第二章  ポイント経済圏の黎明
初日はたった300人/「1業種1社」ルール/すかいらーく攻略に丸4年/ポイント「倍付け」の大発明/マーケティング革命
第三章 巨大経済圏への難路
コンビニ王者の進攻/ローソン電撃離脱の衝撃/牛丼、家電…決死の交渉/Tポイントを救ったファミマ
第四章 ポイント前夜
NECから超異例の転身/衛星放送参入の大博打/次代の寵児たちの因縁
第五章 新たな経済圏の胎動
創業者との同床異夢/電撃辞令でアパレル業に/「古巣」との全面対決へ/対「囲い込み」で活路/上新電機で生まれた妙案
第六章 Tポイント vs 楽天
ENEOS「10年戦争」/アルペンの深謀遠慮/ファミマ独占を崩せ/楽天と伊藤忠のトップ会談/孫正義のファミマ買収計画
第七章 楽天経済圏の躍進
スーパー攻略の秘策/ポイントとカードの二刀流/沖縄でのリベンジマッチ/ZOZOTOWNへの挑戦/名門・東急の合流
第八章 五大経済圏の攻防
敵の敵は敵──ドコモの台頭/楽天とドコモ「幻の握手」/ローソンと楽天の大連合構想 /三菱商事の拒否権/Tポイントの翻意
エピローグ 2強時代の到来
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 普段、何気なく使っているポイントカードですが、すでに巨大な経済圏を築いているようです。「まえがき」には、次のように書いてありました。
「(前略)野村総合研究所の推計によると、2022年度に民間で発行されたポイントの総額は1兆2342億円。ポイントの発行には、物やサービスの購買などが伴う。つまり、ポイントの発行額をベースにすると、少なくとも110兆円もの巨大な消費がひも付いているのだ。
 ポイント経済圏が誕生したのは03年のこと。この年、日本発の共通ポイントであるTポイントが産声を上げた。(中略)20年ほどの間に、さまざまな業種やサービス、さらにリアルとインターネットの垣根を越えた巨大な経済圏が築かれた。」
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 ……こんなにも巨大なものだったんですね。そしてポイントは単なる値引きサービスではなく、重要なのは「データ」なのです。
「(前略)購買データに代表されるビッグデータの存在によって、ポイント経済圏はビジネスや企業の命運を左右する超重要なエコシステムになったのだ。」
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 もうすっかり私たちの生活に浸透しているポイントですが、日本初の共通ポイント、Tポイントが誕生したのは、2003年だったんですね!
「第一章  Tポイント誕生」には、英国の「エア・マイルズ」(ポイント・プログラム)を参考に誕生したTポイントは、最初から「店舗ごとの会員カードの共通化とポイントの共通化」だけでなく、「Tポイントを媒介にして顧客データを集める」ことが狙いだったことが書いてありました。
 しかも自らの覇権が長続きするよう厳しい「1業種1社」ルールを設定し、Tポイントの威力に気づいた他のポイントカードが追随するのを妨げる、とても賢い仕組みを作っていたようです。
「第二章  ポイント経済圏の黎明」では、Tポイントは売上とマーケティングで、すかいらーくや青山商事に実際に効果を示したことが紹介されています。Tポイントは個人情報と購買をリンクできるので、どんな人が買っているかが分かるだけでなく、エリア別の会員数・来店者数から潜在顧客の掘り起こしなども可能になるのです。また商品のリピート率や、どんな商品が一緒に買われることが多いかも分かるので、セット販売などの工夫にもつなげられるようになったのだとか。
「Tポイントは従来の流通のマーケティングの常識を覆した。その原動力となったのが、データの存在である。共通ポイントによる新たなマーケティング手法は、会員の増加や加盟店網の広がり、そして、それらから積み上がるデータをさらに活用することで、進化が一層進むことになる。データを土台とするポイント経済圏の礎が着々とつくられていったのだ。」
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 快進撃を続けていたTポイントですが、その高い経済効果は当然、他のポイントカードの発生を促すことになります。
「第三章 巨大経済圏への難路」では、なんとTポイントの主軸だったローソンが、自分がもっと使いやすい別ポイントに移行すべくTポイントを離脱し、新たな共通ポイントPontaを立ち上げることになったことが書いてありました(……へー、そういう経緯だったんだ……)。でも、コンビニは共通ポイントの中核なので、Tポイント側は必死に次の相手を探し、救世主としてファミマを迎えることが出来たのだとか。
 こうして新たに立ち上がったPontaですが、立ち上げにとても苦労することになったのは、Tポイントの「1業種1社」ルールの存在。Tポイントと加盟企業が結ぶ契約は、「Tポイント以外のポイントは導入してはならない。他のポイントの導入検討をしてはならない。」というとても厳しいものだったそうです。
 このTポイントの「1業種1社」ルールは覇権維持や成長の役に立ちましたが、その一方で、この排他的な仕組みが逆にチャンスを潰してもいました。
 Pontaに続いて楽天がポイント経済圏に参入してくると、楽天は「自社ポイントと楽天ポイントのダブルポイント」を許すなど、「共通ポイント事業者と加盟店の間で、オープンな関係を築く戦略」をとることで、共通ポイント経済圏で存在感をどんどん増していきました。
 楽天は、アパレル業界に楽天ポイントを使ってもらうために、「ダサい」イメージだったロゴを、よりお洒落なものに変えることまでしています。アパレル業界はブランドイメージ棄損を危惧して楽天ポイントに消極的だったのですが、楽天はアパレル業界に、「実店舗とECの融合」という課題に一つの解も与えることになったそうです。
 そして「第八章 五大経済圏の攻防」には、ドコモのdポイントの台頭や、Tポイントの争奪レースで先行していたドコモが、ダークホースの三井住友にさらわれた経緯が紹介されています。そしてTポイントは……
「日本初の共通ポイント、Tポイントはポイント経済圏を築き上げた。だが、後に生まれた新たな経済圏によって、Tポイントは王者の地位から引きずり下ろされることになった。そして、窮地にあったTポイントをのみ込んだ三井住友FGの電撃参戦で、ポイント経済圏の覇権争いは第3幕が開くこととなったのだ。」
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 最後の「エピローグ 2強時代の到来」には、ポイント経済圏の現状が……
「2024年4月22日、Tポイントを統合した新生Vポイントがスタートした。3メガバンクの一角、三井住友フィナンシャルグループ(FG)がカルチャ・コンビニエンス・クラブ(CCC)と組んで、楽天グループやNTTドコモなど強豪がひしめくポイント経済圏の覇権争いに名乗りを上げたのだ。(中略)ポイント経済圏の覇権争いにメガバンクグループが参戦するという、エポックメーキングな出来事である。」
 ……今後は金融業界もポイント経済圏に本格参入してくるのかもしれません。
『ポイント経済圏20年戦争 100兆円ビジネスを巡る五大陣営の死闘』……5大ポイント経済圏の20年戦史を詳しく紹介してくれる本でした。ポイント経済圏では、なぜコンビニ大手のセブンイレブンやイトーヨーカドーの影が薄いのかも分かりました。この本には、ポイントビジネスを牽引してきた主要なプレイヤーとして社長や部門長などの実力者が実名で出てきて、「偉い人」たちが会社の進む方向性に果たしてきた力を、まざまざと知ることが出来ます。そういう意味でも、とても読み応えがありました。
 Tポイントが市場を切り開いたともいえるポイント経済圏は、現在では楽天・ドコモの二強になりつつあるようです。
「経済圏の強さは、二つの観点から測れる。一つが、ポイントの発行額である。経済圏を循環するポイントの量こそが、力の源泉なのだ。
 発行額は楽天が年間7000億円弱に上り、楽天を追うドコモは3000億円半ばとされる。(後略)」
 ……今後のポイント経済圏がどうなっていくのか、Tポイント(現Vポイント)の巻き返しがあるのかにも期待したいと思います。
 軽い気持ちで読み始めた「ポイントの本」でしたが、とても興味津々な内容で、経済や経営の勉強にもなる本でした。みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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