『人類はどこで間違えたのか-土とヒトの生命誌 (中公新書ラクレ 819)』2024/8/7
中村 桂子 (著)

 気候変動、パンデミック、格差、戦争……20万年におよぶ人類の歴史が岐路に立ち、私たちの生き方が問われている今、生命誌研究のパイオニアの中村さんが、科学の知見をもとに、古今東西の思想や文化芸術、実践活動などの成果をも取り入れて、「本来の道」を探っている本です。
「第三部 土への注目――狩猟採集から農耕への移行と「本来の道」」に、本書のメインテーマと思われる文章があったので、まず、それを紹介させていただきます。
「狩猟採集から農耕への移行は、定住生活、つまり他の野生生物とは異なる人間(ホモ・サピエンス)独自の生活の始まりであり、従来、野蛮から文明へのすばらしい転換として評価されてきました。けれども支配・操作・拡大・階級などという、生命誌の立場で見ると現代社会の持つ問題点とせざるを得ないことがすべてここで始まっているのです。(中略)
 だからと言って、農耕への移行を止めるという選択はありません。自ら考えてよりよいものを求め、新しい生き方を探ることをせずにはいられないのが人間であり、その一段落としての農耕には大きな意味があります。時に自然の大きさを受け入れ、時に一つ一つの生きものへの愛おしさを感じることが大事です。そこからは自然の一部である自身を大事にしながら、しかも謙虚さを失わない生き方を基本に置く仕組みを持つ社会をつくれないだろうか、生命誌はそれを願います。支配・操作ではなく、自然の持つ力に手を添えるという関わり方をすることです。」
 また「進歩」と「進化」は違うということも書いてありました。
「(前略)進化は自然の中で周囲と関わり合いながら生じてくる変化であり、結果は多様化です。(中略)
 それに対して進歩は、とにかく便利にしようとして一つの道を一直線に進み、一律化していきます。そして古いものはどんどん捨てていきます。(中略)
 社会性を持つ生きものとしての人間は、それぞれの地域で集合体をつくり、社会を構成しています。地球上のさまざまな地域の特性を生かした多様な社会です。まず進歩から進化への転換が不可欠であり、その鍵は多様性です。
 それぞれの地域が、その地の自然に合った形で足腰の強い、豊かな、持続する生活基盤を農業によってつくることです。」
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 この他にも、次のような文章が心に残りました。
「生き物はいつか必ず生を終え、有機物として分解され土に戻り、炭素循環の中に入ります。」
「農耕は本来「自然が循環で支えられていることを理解し、循環の中にある自然の力を思い切り生かして、生きものである私たちが心身共に健康に生きることを支える食べ物をつくる作業」です。」
……「『私たち生き物』の中の私」という視点をもつことが大事なようです。
『人類はどこで間違えたのか』……生き物の進化の歴史や、健康な土を保つ5原則など、生命誌に関する深い知識や経験によって培った中村さんの知識や考え方を教えてくれる本でした。「より良い社会」や「より良い生き方」はどんなものかを考えるうえで、とても参考になりました。みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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