『地質と地形で見る日本のジオサイト 傾斜量図がひらく世界』2011/7/13
脇田 浩二 (編集), 井上 誠 (編集)

 日本各地の地点や地域70箇所を傾斜量図によって「見える化」、そこに見られる地質の特長やメカニズム等々について、カラー写真と地質図・景観写真、傾斜量図等を使って見開き2ページで分かりやすく解説してくれる本です。
 まず見開きで、地方ごとの「全域傾斜量図」と「全域地質図」とともに、地方全体の解説が書いてあります。この2枚の地図を見ると、その地域の全体の様子がよく分かって、とても興味津々でした☆
 ちなみに「傾斜量図」と「地質図」とは……
・「傾斜量図は明るさで傾斜の程度を示し、地形をエッジ協調しています。このため、地形を形成する岩石の違いを視覚的に見ることができます。」
・「(前略)本書で地質図としているものは、これらの土壌や草、木々やアスファルトをはいだその下、地下に広がる地層や岩石の分布をしめしたものです。岩石や地層の種類や年代によって、さまざまな色で塗り分けるので、非常にカラフルですが、実際の地層や岩石にそんな色がついているわけではありません。」
 ……というものです。
 例えば「3 関東甲信越地方」では、「関東・甲信越地方全域地質図」の「フォッサマグナ」の部分に線が入っていてとても分かりやすく、解説でも次のように書いてありました。
「(前略)また、フォッサマグナには形成直後に南から伊豆-小笠原弧が衝突しており、赤石山地から関東山地はハの字状に大きく屈曲し、その屈曲内部には富士山や甲府盆地が形成されています。」
 ……「地質図」を見ると、伊豆半島の部分は地質も他と少し違うし、本当に「南から衝突してきた」という感じがするのです。
 また見開きページで紹介される、より小さな地域のページは、例えば……
「3-6 千葉県:房総半島中南部(上昇を続ける房総丘陵)」では、千葉県の養老渓谷あたりの写真や、房総半島の傾斜量図や地形図とともに……
「(前略)この傾動運動は、実は房総半島が南方のフィリピン海プレートと東方の太平洋プレートという二つのプレートのもぐり込みによって、押され持ち上げられている結果であると考えられています。」
 ……というような解説がありました。房総丘陵は上昇しているんですか……。
 続く「3-7 東京都:東京都23区(日本の首都は坂の町)」では……
「(前略)23区内には、約7万年前~1万8000年前の低位段丘面が台地を形成しています。台地には溺れ谷が非常によく発達していますから、このためどこに行くにも台地と谷の間の坂道を上ったり下ったりしなければなりません。」
 ……なるほど。東京を歩いていると、あちこちに妙なアップダウンがあって疲れるのは、「溺れ谷」のせいだったんですか……納得……。
 また「4-5 三重県:伊勢志摩」では、三波川変成岩が分布する地域に伊勢神宮があって、伊勢市街地と伊勢神宮の間には中央構造線という大断層が伏在していることや、中央構造線より南には、三波川帯、秩父帯、四万十帯という中生代の地層群が平行に配列していることを知りました。
 そして「4-6 岐阜県/愛知県:岐阜・犬山・小牧」では、岐阜城、犬山城、小牧城のある小高い丘を構成している地質が、チャート(99%以上が珪酸から構成される岩石。放散虫などの遺骸が堆積してできた地層)で形成されているなど……興味深々な内容満載です。
 ページを開いたとたん、思わず「おお!」と声が出てしまったのは、「中国地方」の「地質図」。
「中国地方の地質図は、ピンクと赤の世界です。白亜紀から古第三紀の火山岩や花崗岩などが広く分布しているからです。」
 ……まさに「ピンクと赤の世界」でした。どうりで中国地方には、花崗岩の名所が多いわけですね……。
 そしてさらに驚かされたのが、「四国地方」の「全域傾斜量図」と「全域地質図」。
「四国の特徴は、北部を東西に走る中央構造線とそれに平行する地層や岩石が東西方向に分布することです。」
 ……これはもう、まさに目に見える「中央構造線」という感じ! 驚くほどまっすぐな東西方向の分布なのでした……。
 この他にも、地震断層観察館で断層を直接観察できる「4-7 岐阜県:根尾谷断層」など、さまざまな情報を得ることが出来ました。
「8-8 鹿児島県:桜島(噴火が続く危険な山)」では……
「(前略)現在、姶良カルデラの地下には大量にマグマが蓄積されつつあることがわかっています。この先どうなるかはわかりませんが、いずれは大正噴火のような大規模な噴火が起こる可能性が高いと考えられます。」
 ……などという怖い情報も……。
 まさに『地質と地形で見る日本のジオサイト』です。地学好きとしては、特に「地質図」に目が釘図づけに☆ (独)産業技術総合研究所地質センターが、1882年から日本の地質図を作っているそうですが……どれだけの労力が費やされてきたんでしょうか……貴重な情報をありがとうございます。「日本シームレス地質図」はインターネットで公開されているそうです。
 また国土地理院から発行されている数値標高モデル(デジタル地形図)というものもあるようです。
 地学好きには、興味津々な情報満載の本でした。「傾斜量図」や「地質図」を眺めるだけでも楽しいです。みなさんも、ぜひ読んで(眺めて)みてください☆
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