『古生物水族館のつくり方 プロが真面目に飼育施設を考えてみた』2023/12/23
土屋 健 (著), ツク之助 (イラスト), 海遊館 獣医師 伊東隆臣 (監修), & 1 その他

「水棲古生物を安全に展示できるフィールドとはどんなものだろう?」
「飼育や繁殖にはどんな環境が必要なのかな?」
「日々の体調管理はどうすれば良いの?」
「古生物水族館」を実現するには何が必要なのだろう?
 古生物の専門家、現生動物の専門家、そして水族館の獣医さんの叡智を結集し、リアル感満載の「古生物水族館」施設紹介をしてくれる本で、主な内容(水族館エリア)は次の通りです。
■zone A「メイン館1階 サメとその仲間たち」
(メガロドン、ヘリコプリオン、アクモニスティオン、ファルカトゥス)
■zone B「メイン館2階 世界の水棲古生物」
(メトリオリンクス、ショニサウルス、ペゾシーレン、ステラーカイギュウ、他)
■zone C「身近なエリアとリサーチ館」
(フルービオネクテス、デスモスチルス&パレオパラドキシア、クラドセラケ、他)
■zone D「クジラのドーム」
(アンビュロケタス、バシロサウルス、ハーペトケタス)
■zone E「ビーチと入り江」
(アーケロン、ストゥペンデミス、モササウルス、リヴィアタン)
■ようこそ! バックヤードツアーへ

「はじめに」によると、この本は、「時空を歪める霧現象が発生して、その霧を通って古生物が現代世界に現れるようになった」という設定のようです(笑)。だから、この水族館では、本来は博物館で化石として見るしかない古生物を、「生きている」状態で見ることが出来るのです。
 zone A「メイン館1階 サメとその仲間たち」で最初に登場するのは、なんと全長15メートルの巨大サメ「メガロドン」! その専用水槽は、幅200メートル、奥行き200メートル、水深10メートル、水量40万トンというもので、頑丈さを確保するため壁はコンクリート製の厚いつくりで、観察用に直径1メートルの窓があります(この窓は人間が「檻」に入って清掃します)……巨大なサメに巨大な水槽……「古生物水族館」恐るべし……。
 ちなみに、このメガロドンは、「あお向けになると擬死行動をとる」というサメ類の性質を利用して捕獲されたそうです(笑)。
 続いてギンザメの仲間とされる「ヘリコプリオン」。餌として疑似アンモナイトが与えられています。そして、このコーナーでは……
「化石、生態、そして動画で確認。この三つを組み合わせることで、ヘリコプリオンのこのコーナーは、この水族館でも人気展示の一つとなっている。」
 ……とても良いですね!
 次のエリアzone B「メイン館2階 世界の水棲古生物」では、18世紀に人間が狩り尽くして絶滅させてしまった「ステラーカイギュウ」がいて、ここでは人間への教育(生物保護)も行われているようです。また繁殖も試みられているのだとか……。
 こんな感じで古生物それぞれに合った環境(温度や水質、昼行性・夜行性、餌など)を作って展示しているのです。
 なんと日本のクビナガリュウ「フタバサウルス」までいて、その水槽の広さは、一般的な3階建て戸建て数軒が余裕で入る巨大さなのでした……これでも狭すぎなのかも……。
 貴重な古生物たちの保護・研究の施設なので、専用のホールディングプールと医療用プールがある場所もあり、とにかく天文学的なコストがかかりそうな凄い施設。仮想でなければとても出来ません……。
 甲冑魚「ボスリオレピス」の部屋では、プロジェクションマッピングを使ってデボン紀の森と河川を再現し、加えてボスリオレピスの上陸用の陸地も用意されている、という工夫もされていました。……プロジェクションマッピング、いいですね! というか、この「古生物水族館」は超高コスト過ぎて実現不可能なような気がしますが、とても面白そうなので、VRで実現できるといいかも、と思ってしまいました。
 さて、この「古生物水族館」は、「ようこそ! バックヤードツアーへ」で、水族館の裏側も見ることが出来ます(笑)。実はここに、本編の注釈がまとめてあるのです。
 本編の「ユーリプテルス(ウミサソリ類)」の解説に、あまり過密になると喧嘩を始めてしまう可能性がある。殻が割れた場合は取り出してエポキシ樹脂で修復する、ということが書いてあったので、ええっ、エポキシ樹脂で? と思って、その部分の「バックヤードツアー」を見てみたら、これはカブトガニを参考にした対処法なのだとか。……そうなんだ(笑)。
 また水族館でよくペンギンパレードが見られるのは、次の理由があったことも初めて知りました。
「(前略)一般にペンギン類は、あまり歩かないでいると、足裏への血流が悪くなり、「バンブルフット」と呼ばれる炎症を起こすことが多い。その発症予防として、意図的に歩かせるパレードは有効なのだ。」
 そして大きな魚の水槽の底の方に小さな魚が入っていることがあるのは、どうしても余って落ちてしまう大きな魚のための餌の掃除が大変なので、小型の底生魚を同じ水槽で飼育することで、それを食べてもらって水槽の底をきれいにしているという理由からだそうです。……そんな工夫をしていたんですね。
『古生物水族館のつくり方』……ありえない空想上の水族館のようですが……イラストも多用されているので、読んで(眺めて)いるうちに、だんだん本当に古生物のいる水族館を歩いているような気になってくる素敵面白い本でした。水族館好きな人には、とても楽しめると思います。みなさんも、ぜひ読んで(眺めて)みてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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