『榛原(はいばら)の藝術とデザイン HAIBARA Art & Design 和紙がおりなす日本の美』2023/12/26
三鷹市美術ギャラリー (監修)

 竹久夢二、柴田是真、川瀬巴水、河鍋暁斎まで、画家が腕をふるった千代紙、ぽち袋、絵短冊……「紙」小物への「偏愛」を支え続けた、高級和紙舗・はいばらの200年の歴史を紹介してくれる図録で、主な内容は次の通りです。
江戸から明治の榛原
千代紙
四季のうつろいと和紙(絵短冊、大小暦、団扇・団扇絵)
交わす、贈る美しく可憐な小間紙たち(絵封筒・便箋類、熨斗(のし)、祝儀袋・ぽち袋)
画家たちとの交流

「はじめに」には、次のように書いてありました。
「日本橋に店舗を構える「榛原―はいばら―」は、1806年(文化3年)に創業し熱海製雁皮紙をはじめとする高級和紙や、小間紙と呼ばれる装飾用の和紙製品(千代紙、書簡箋、熨斗ほか)などを販売してきました。」
「本書は三鷹市美術ギャラリーで開催される「HAIBARA Art & Design 和紙がおりなす日本の美」(2023年12月16日~2024年2月25日)の公式図録として刊行したものである。」
 ……普通の単行本サイズの本ですが、美術展の「公式図録」なので、多くの和紙製品がフルカラーで紹介されていて、とても見応えがありました。
 最初の展示品は「千代紙」。外国の美術館にも収蔵されているというほどの美しい和風デザインの千代紙を多数見ることが出来ました。
 中でも著名な画家の河鍋暁斎デザインの千代紙は、鮮やかな色彩の大胆な図柄のものが多くて、とても素敵です。作品の下の説明には、次のように書いてありました。
「幕末から明治にかけて活躍した河鍋暁斎は、本画や版画制作のほかにも多岐にわたる分野でその才能を発揮し、多くの仕事を手がけた。暁斎と深い交流があった榛原・金花堂・今井の3店では、千代紙だけでなく掛紙や団扇絵ほかさまざまな仕事を依頼している。大胆な色彩と画面一杯に菊や牡丹の花弁を描いた作品は、四方に模様がつながるように工夫され、迫力のあるデザインになっている。」
 そして続く「四季のうつろいと和紙・絵短冊」では、サイズ感がよく分かりませんが、絵柄的には、床の間に飾るととても素敵な感じの細長い(短冊)絵の12枚セットがたくさん。1月から12月までの季節感を感じさせる行事や花が描かれていて、これを交換するだけで部屋の印象がちょっと変わりそうな感じで、インテリアとして便利に使えそう。次のように書いてありました。
「榛原では明治27年(1894)年頃から著名な画家に画稿を依頼し、「十二カ月絵短冊」(木版画)を毎年新たに製作販売している。初回から3年続けて庄司竹真が揮毫し、続けて川端玉章、綾岡有真など当初は三代目榛原直次郎と関わりが深い画家たちが筆を執った。その後は官展で活躍する画家たちに下図を依頼し、この一連の商品は現存する資料では大正7(1918)年まで継続したと考えられる。」
 この他の作品(商品)も高級路線をいく榛原らしく、団扇ですら、酒井抱一、椿椿山、渡辺崋山などの絵を版にした高尚なものばかりのようです。
 また「交わす、贈る美しく可憐な小間紙たち(絵封筒・便箋類)」では、ちょっと個性的な感じの便箋が……。次のように書いてありました。
「絵半切(便箋)は、摺り出された文様や絵柄の美しさだけでなく、使用されることを前提にしたいわば「未完の芸術」である。淡い色彩と十分にとられた余白は文字への配慮であり、墨の文字が加わることで全体のバランスが整うよう計算されていた。」
 なるほど……。ここには墨で文章が描かれた実例もありましたが、まるで書道の作品のような美しさ。こういう便箋に、下手な字で書くと恥ずかしいかも……(苦笑)。
 また竹久夢二デザインの小間紙もありましたが、淡い花の色合いがとてもお洒落で美しく、さすが竹久夢二だなーと感心させられ、これは本書の作品(商品)の中で一番買いたくなったものでした。
 ここでは竹久夢二がお葉に当てた直筆書簡(榛原製便箋・封筒使用)も紹介されていましたが……文字は上手というよりは、可愛い字だったようです。夢二ファンの方は必見です。
 さらに「画家たちとの交流」では、最初に登場する柴田是真の団扇絵の「酔後の亀」が、とてもユーモラスで素晴らしく、これも欲しくなるものでした。
『榛原(はいばら)の藝術とデザイン HAIBARA Art & Design 和紙がおりなす日本の美』……日本橋の老舗和紙舗「榛原」の歴史を総括した本で、千代紙、団扇、便箋……人々の生活と心に寄り添った紙製品も紹介されるなど、和紙が好きな方には眺めるだけで楽しくなる本だと思います。
 ただ……一部の説明文の文字が、小さいうえに、紙に濃い色がついているなど、残念ながら読みにくいページがいくつかありました。購入を検討している方は、書店などで実物を確認することをお勧めします。
<Amazon商品リンク>