『生命はゲルでできている (岩波科学ライブラリー 325)』2024/3/18
長田 義仁 (著)
固体と液体の性質をあわせもつゲルで、私たちのカラダの大部分はできています。高分子がつくるネットワークに水を大量にたくわえ、生命活動に不可欠なしなやかさを備えるばかりか、物質・エネルギーの輸送も担う……そんなゲルの驚異のしくみを詳しく教えてくれる本です。
「あとがき」に本書の内容を象徴するような文章が書いてあったので、ちょっと長いですが、まずそれを紹介します。
「(前略)ゲルは絶え間なく振動している高分子ネットワークと溶媒とからなる2成分系の物質です。このような多相複雑系物質は、時空間のスケールによって液体としても固体としてもふるまい、それが生命維持の上で不可欠な要素です。運動性と多様性をもつこのようなソフト&ウエットマターは、金属やセラミックといったハードマターと異なり、自己組織化という柔軟な過程を経ながら秩序構造や階層構造をつくる能力をもっています。この能力こそが、生命体がもつ機能と共通する属性で、それが、ゲルは生物組織のダイナミズムと創発性を理解するためのキーマテリアルだと言われる所以でもあります。本書の「生命はゲルでできている」というタイトルも、このようなことから来ています。」
……まさに、これ! 私たちを形作っている、固体でもあり液体でもあるゲルの不思議な性質に興味津々、どんどん読み進められました。
さて、「1 世界はゲルに満ちている」によると……
「ゼリーやコンニャク、豆腐のように水を含んで膨れ上がり、固体なのか液体なのか簡単に判断できない物質のことをゲルという。」
「(前略)私たちのカラダも60%ほど水を含んでいて、組織の大部分、筋肉も眼も内臓も、歯や骨を除けばカラダをつくっているのはゲルなのだ。」
……だそうです。
とても勉強になったのが、「2 ゲルをつくる」のコラーゲンについて。
コラーゲンは生体内で3本の鎖が互いに絡み合う3重ヘリックス構造をつくり、これが集まって一方向に配列してミクロな繊維を形成し、さらに束になってカラダの主要な組織をつくっているそうです。このコラーゲン繊維の3重ヘリックスは互いに強く結合しているので、このままでは水に溶けませんが、酸やアルカリなどの化学物質とともに水中で加熱すると、繊維が壊れて1本ずつバラバラになり、ランダムコイルとよばれる毛糸が丸まったような形になって水に溶けるようになるのだとか。
また「3 ゲルが示す不思議なふるまい」によると……
・「高分子電解質のゲルは、限られた3次元網目の空間にきわめて多量の電離基が固定されているので、イオン化すると互いの静電反発力は鎖状の高分子イオンと比較してはるかに強い。したがって膨潤することによって網目をできるだけ広げようとしても、網目の大きさは限られているので、ある大きさ以上に広がることができず、斥力が残ったままの状態にある。この過剰の静電反発力が協同的に作用するので、ゲルは多量の水を吸収でき、しかもそれを流れ出させないのだ。」
・「一方、水中にあって自由に移動できる低分子の対イオンは、多くの水分子によって取り囲まれて水和しているのでポテンシャルが高くならない。高分子電解質のゲルが吸水するだけでなく、イオン交換樹脂が海水中のイオンを交換し、重金属や汚染物質を優先的に吸着できるのは、高分子電解質のゲルが対イオンに対し非対称的なポテンシャル分布をつくっているためだ。」
……こういうゲルの不思議な性質が、生体組織の形成や維持に役立っているんですね!
さらに「4 ゲルは環境に応答する」によると……
・「膨潤したゲルの中の水も拡散する。水に溶けた物質があれば、それもまた水と一緒にゲル中を拡散するので、生命維持に必要な新陳代謝、すなわち必要な物質を輸送し、老廃物を排出することが可能になる。」
・「ゲルのネットワークは、水と強い相互作用をすることによって、水の粘性を増大させ、その水の存在によって、ゴム弾性を獲得した。この粘弾性こそ、すでに述べたゲルの拡散、輸送、可逆的変形という生物類似の環境応答機能をもたらすものだ。」
……だそうです。
この他、細胞外マトリックスや赤血球などの「命を支えるゲル」についても詳しい解説がありました。
『生命はゲルでできている』……ゲルというとゼリー状のものしか思い浮かびませんでしたが……私たちの身体の大部分も実はゲルだったんですね。しなやかで丈夫なゲル万歳☆ これからもずーっと私たちの体内を、健やかに保っていてください。
とても勉強になる本でした。生物学が好きな方はもちろん、医療や健康が気になる方も、ぜひ読んでみてください☆
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