『宇宙はいかに始まったのか ナノヘルツ重力波と宇宙誕生の物理学 (ブルーバックス B 2263)』2024/6/20
浅田 秀樹 (著)
重力とは何か? アインシュタイン方程式とは? そして宇宙のはじまりはどのように考えられているのか? ……宇宙の誕生に迫る宇宙論を分かりやすく解説してくれた上で、「ナノグラブ」によって行われた「パルサー」を用いた宇宙空間の精密観測「パルサータイミング法」と今後の観測計画を教えてくれます。15年以上にもわたる「パルサー・タイミング・アレイ」による観測の結果から、謎の超長波長の重力波「ナノヘルツ重力波」の正体に迫っていく本で、主な内容は次の通りです。
序章 ナノヘルツ重力波の衝撃
謎の重力波とパルサー・タイミング・アレイ
1章 重力とはなにか……空間そして時間の歪み
コラムメジャーリーグ投手の放つ重力波
2章 重力波望遠鏡……宇宙を見る新しい目
3章 連星パルサーの謎……電波天文学と中性子星
コラム 重力波に縦波成分は存在するのか?
4章 宇宙誕生の痕跡とは……インフレーション理論と原始背景重力波
5章 巨大ブラックホールの謎……宇宙の歴史を探る
コラム 「特異点定理」の数理
6章 超波長重力波を捉えるには……パルサータイミング法と宇宙の謎
7章 もう一つの重力波観測……位置天文学で見える宇宙
8章 宇宙のはじまりを見る……超長波重力波の正体と未来の宇宙観測
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2023年、世界に衝撃を与えた国際研究チーム「ナノグラブ」の報告は、ある重力波の存在を捉えたというものでした。
発見された重力波は、ナノヘルツ、つまり数年もの非常に長い周期の超長波長の重力波。そして、この観測プロジェクトで使われた手法は、「パルサー・タイミング法」。「パルサー・タイミング・アレイ」は、パルサーを「検出器を広範囲に並べたもの=アレイ」に見立てて観測するというもので、電波星ともいわれる「パルサー」から送られてくる電波を観測することで、宇宙の空間の歪みを検出するという手法が、この「パルサー・タイミング法」だそうです。
本書は、この「ナノヘルツ重力波」がメインテーマですが、それを理解するための基礎知識として、「重力」や「パルサー」などについても、丁寧に分かりやすく解説してくれるので、とても勉強になりました。
例えば「1章 重力とはなにか」では、ケプラーの法則の他、アインシュタインの一般相対性理論についても解説してもらえます。そのごく一部を紹介すると次のような感じ。
・アインシュタインは万有引力が空間の曲がりによるものだと考えた
・「一般相対性理論によれば、天体の質量によって周りの時空は曲がっています。そのため、そこには直線は存在しません。光さえ真っ直ぐ進むことはできないのです。」
・「一般相対性理論によれば、先ほどの連星パルサーの周りの時空は曲がっています。そして、連星をなす2個の天体は互いの周りを公転するため、その時空の曲がり具合は時間変動します。これにより重力波が生じます。
そして、重力波が遠くへ広がるにつれて、エネルギーが外に運び出されます。この結果、連星パルサーの持つエネルギーは少しずつ減少します。エネルギーが減少する連星は、星どうしの距離が短くなります。つまり、1回公転するのにかかる時間(公転周期)が減少するのです。」
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……こんな感じで、「重力波」や「パルサー・タイミング法」につながっていく宇宙論の基礎知識を解説してくれるのです。
個人的にとても参考になったのが、「3章 連星パルサーの謎」の「パルサー=中性子星」の解説。
質量が太陽の10~30倍くらいまでの恒星の超新星爆発では、恒星の物質すべてが外側に吹き飛ぶのではなく、中心部分が圧縮されて固いコアが形成されると考えられ、このコアとして残される部分が中性子星なのだとか。そして……
「(前略)原子は、中心に正の電荷をもつ原子核があり、その周りを負の電荷をもつ電子が回っています。ところが、重力によって強力に圧縮された結果、その中心部の密度が原子核の密度ぐらいになると、もはや電子が原子核の周りを自由に移動できなくなります。そして、電子と陽子が反応して、中性子に変換されます。そのため、中性子星には、通常の電子は存在しません。また、このときの反応で、中性子以外に作り出されるのが、ニュートリノです。」
……なるほど。中性子星はこんな風にできていたんですね。
そして電波パルスの周期が正確なのは、パルサーの自転が安定しているためだそうです(中性子の巨大な塊である中性子星は、その内部の物質分布がほとんど変化しないため、慣性モーメントが一定のままだから)。
そして「6章 超波長重力波を捉えるには」から、いよいよパルサータイミング法で宇宙の謎を探る方法が詳しく紹介されていきます。
「重力波」は本当に微細な変化を捉えなければならないので、観測に入ってしまう、たくさんのノイズをどう排除しているのかなー、というのが疑問だったのですが、この章でその答えを教えてもらえました。
観測電波にかかるノイズには、地球の大気(主に水蒸気)や、宇宙空間の中性水素(通常は水素分子の形)など、多くのノイズがあるそうです。
でも中性水素による遅れと、重力波による遅れには、大きな違いがあり、重力波による遅れは「万物の遅れ」ですが、中性水素による遅れは「電波の波長に依存する」ので、ある程度の補正ができるそうです。……なるほど、確かに。ただし重力波以外にも「観測データに共通のノイズ」があり、例えば、観測に使用する電波望遠鏡のノイズなどについても補正が必要なようですが……(もちろん、この他にも多くのノイズがあります)。
さらに「7章 もう一つの重力波観測」では、天体の位置を測量する天文学の最新情報を知ることができました。
『宇宙はいかに始まったのか ナノヘルツ重力波と宇宙誕生の物理学』……宇宙の誕生に迫る宇宙論と、観測の最前線を分かりやすく解説してくれる本で、とても勉強になりました。科学や宇宙が好きな方はぜひ読んでみてください☆
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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