『宇宙の水を求めて-水探査から始まる宇宙大航海』2024/9/4
長谷部信行 (著), 内藤雅之 (著), 清水創太 (著)

 水の性質や生命の起源、地球や月の起源から、月の水探査の歴史と成果、水資源の観測方法と現在進行中の水探査など、これからの探査計画をQ&A形式でわかりやすく解説してくれる本です。
 本書のサブタイトルが「水探査から始まる宇宙大航海」とあるように、水は私たちにとって最も身近で、なくてはならないものです。生命を維持するには有機物の溶媒となる液体が必要で、地球の場合は、その役割を水が果たしています。また水はさまざまな物質を溶かすことが出来るので、いろいろなものが水に吸収され運搬されることで、自然界の大循環がつくり出されている……私たちの美しい地球が豊かな生命で満ちているのは、まさに「水」のおかげですね!
 ところで地球が形成されたときに、その大量の水はどこからもたらされたのか? について本書では……
「太陽系の形成時(原始太陽系)において、太陽に近い宇宙空間では温度が高くなり水は気体(水蒸気)として存在しますが、太陽から遠くなると氷になります。その境をスノーライン(あるいはアイスライン)と呼んでいます。スノーラインの内側にある物質は乾燥して揮発性物質が欠乏した岩石惑星(地球型惑星)になり、一方、スノーラインの外側では大量の氷や揮発性物質(水・アンモニア・メタンなどの氷)を含む大きな原子惑星が形成されます。(中略)
 地球が生まれる初期の地球付近では、水を含め揮発性の物質は欠乏していました。しかし、木星が形成される時期になると、巨大な木星の重力攪乱の影響を受けて状況が大きく変化しました。すなわち、木星近傍にあった氷の微惑星が、その重力攪乱を受けて隕石となって地球に大量に降り注ぎました。もともと水のない地球でしたが、こうして豊かな水の惑星地球が生まれたのです。」
 ……と教えてくれます(本書には、もっと詳しい解説があります)。地球の水は、なんと木星の誕生と関係していたんですね!
「宇宙の水探査」では、最近は「月」に注目が集まっていますが、それは、アポロ計画で月から回収した火山性ガラスの中から、初めて月マントルに由来する固有水が発見されたことがきっかけになっているようです。
 そして月の水の供給源として考えられているものには……
1)月の内部からの火山活動による揮発性物質の供給
2)水などの揮発性物質を多く含む始原的な隕石による供給
3)彗星の衝突による供給
4)太陽風由来の水素と月面酸化物との化学生成
 ……などがあり、また月面に存在する水を測定する有力な方法には……
1)中性子による分光法
2)近赤外線領域の月面からの反射光を使った分光法
 ……などがあるようです。
 本書では月について、「月の1日は、満月から次の満月(29.5日)」とか、「15日の昼で熱せられた月面の温度は100度を超え、逆に15日冷え続ける夜には―150度を下回る」とか、「月の明暗は高低差ではなく、その場所を構成する岩石の種類の違いによるもの(暗い部分はマントルが部分的に再溶融したマグマの噴出(玄武岩)。明るい部分は斜長石と考えられている)」などを知ることができました……そうだったんだ……月の明暗は「高度」の違いかと思っていました……。
 これからの月の水探査計画は、米国が中心になって進めている国際的な「アルテミス計画(有人の月飛行計画)」が中心になっていくようです(日本も参加しています)。本書では、この計画についても詳しく知ることが出来て、興味津々でした。
 例えばアルテミス計画の「ゲートウェイ」。これはサイズがISSの7分の1程度。深宇宙で人間と探査活動を支援するための月軌道の基地で、月を周回しながら継続的に人間の月面活動を支援するそうです。しかもそれだけでなく、将来には、火星へと進展するミッションモデルとしての役割を果たし、人を火星などの深宇宙に送る重要な中継基地となる(火星探査機を寄港させて物資や燃料を供給する)……うーん、未来感がありますね☆
 月は、その特異な環境も資源として期待できるようです。(低重力や大気・磁場のない環境を地上の実験室で再現するのは困難なので)
 そして月面の有人拠点の候補として、月の地下空洞(縦穴)があげられているようです。これはマグマの流れ道だった空洞の天井が隕石衝突などで崩れ落ちて形成されたと考えられているもので、ここに拠点を置く利点としては、温度差が比較的少ない、宇宙から降り注ぐ微小隕石の影響が小さい(大気がないので微小隕石は途中で燃え尽きずに落下してくる)、放射線を遮蔽する効果もある、などがあげられていました。地球の原始時代もヒトは洞窟を利用していましたが……月の原始時代の幕開けも、もしかしたら同じような場所で始まるのかもしれません(笑)。
 本書では、火星や系外惑星など、さらに遠い場所での水や生命探査についても解説されていました。
『宇宙の水を求めて-水探査から始まる宇宙大航海』……月や太陽系内の天体、さらに系外惑星など宇宙での水探査についてだけでなく、水の性質や生命の起源などまで説明してくれる本で、とても参考になりました。宇宙に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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