『三度のメシより事件が好きな元新聞記者が教える 事件報道の裏側』2024/4/24
三枝 玄太郎 (著)
世の中は毎日、たくさんのニュースであふれています。なかでも最も身近なのが事件や事故に関連するニュースかもしれません。
でも告訴と告発の違いは? と聞かれると……あれ、なんだっけ? という人は多いのではないでしょうか。この本は「ニュースの言葉」のポイントとその背景を、元新聞記者の三枝さんが分かりやすく説明してくれる本で、主な内容は次の通りです。
第1章 逮捕ってそもそも何なの?
第2章 取調室では何が起きているのか?
第3章 「命に別条はない」と「意識あり」はどう違う?
第4章 火事や失踪ほど難しい事件はない
第5章 「超」踊る大捜査線――現実は刑事ドラマより奇なり!?
第6章 事件ニュースが「ぼやけて」きている?
第7章「夜討ち朝駆け」は風前の灯火か?
第8章 大新聞で事件記事が減っている?
第9章 それでも事件記者は走る
*
ちなみに告訴とは、「告訴権者が捜査機関に対し犯罪事実を申告して、犯人の処罰を求めること」だそうです。そして告発とは、「告訴権者以外の人が捜査機関に犯罪事実を申告して、犯人の処罰を求めること」なのだとか。要するに「当事者なら告訴、第三者なら告発」のようです。
また「容疑をほのめかす」という表現は、「容疑は認めているが、供述調書という形に残るようにはさせていない」状態を意味するのだとか……へえー、そうだったんだ……。ニュースの事件に使われている用語には、それぞれ、きちんとした意味があるんですね……。
とても興味津々だったのが、警察の取り調べで一番きついのは捜査二課だと感じていたということ。捜査二課というのは殺人犯や暴力団ではなく、贈収賄などの知能犯罪を扱う部署なので意外でしたが、二課の刑事さんに次のような話を聞いたことがあるそうです。
「容疑者は市役所の課長さんとか、県議や市議などの政治家だろ? いつも威張っているタイプが多いからな。取調室でえらそうにされたら、こっちも商売にならないんだよ。力関係をわからせるために、最初に一喝することにしていたね」
……そうなんだ。
また家宅捜索に入るとき最も派手でテレビ映えがいいのは、群を抜いて大阪府警、という話も面白かったです。山口組の事務所を家宅捜索したときの荒れっぷりもものすごいものがあるそうで、「大阪や!」「はよ、開けんかい!」と捜査員が怒鳴り散らす……こういうのって漫画やアニメでの脚色なのかと思っていました……リアルでも、そうだったんだ……ちなみに東京の警視庁の家宅捜索はかなり紳士的なのだとか……。
そしてドラマみたいで驚かされたのが、「第7章「夜討ち朝駆け」は風前の灯火か?」で紹介されていた、三枝さん自身が警察からのリークで痛い目にあったという出来事。
ある日、警視庁内の保安課の部屋に入ったときに、「○○国の大使館でカジノをやっている」という話を教えられて、「大使館の治外法権を悪用している」ことを新聞に書くことを決意します。実はウィーン条約によって、外国の大使館や領事館は治外法権になっているので、大使館の中で違法な行為が行われていても、警察は手を出せないのです。
そこで「大使館内でカジノか」と新聞に書いたら、早速その大使館から呼び出しが……ここではカジノなどやっていない、外交問題になるぞとの脅しを受けてしまいました。
慌てて警視庁に戻って保安課に行くと、なんと警察はその証拠写真を握っていたのです(貸してくれませんでしたが、見せてくれました)。
そこで再び大使館に行って、謝罪や訂正記事はだせないこと、カメラマンが撮影した写真があることを告げて、そちらが矛を収めないなら新聞に証拠写真を掲載すると強い口調で言ったら、相手はようやく「ことを荒立てるつもりはない」と折れてくれたのだとか。……うーん……事件記者って、怖い目にあうことも多いようですね……。
この章では、ニュースや新聞記事でよくある『捜査関係者によると○△□×』という表現は、警察の公式発表ではなく、捜査員の出退勤を見計らい、ひっそりと庁外で会って話を聞くこと(『夜討ち朝駆け』)などの取材手法で得た情報のことだという説明がありました。この夜討ち朝駆けの時には、取材時にハイヤーが記者の自宅まで迎えにきてくれるそうですが、経費が多いわりに実りが少ないようで、最近はどんどん減っているようです。……でもこれ、もし自分が捜査員だったら、疲れて帰る仕事帰りに記者にうるさく質問攻めにあうなんて嬉しくないと思います。だからたぶん、絶対に何も教えないでしょう(何か教えたら、毎日押しかけてくることになりそうだから)。それだけじゃなく記者の方にとっても、自分がやられたら嫌だと思うこんな方法で情報を得るのは、精神的にも時間的にも苦しいような気がするので……誰のためにもならない無駄な努力は、やめたほうがいいような……。
それと記者さんは、「他社に抜かれる」のが絶対に嫌なようですが、一般人としては、「他人より少し早く逮捕をスクープしたとして、それに何の意味があるの?」と思ってしまいます。スクープって、新聞等の売り上げや社会を良くすることに貢献しているのでしょうか? 新聞には「早いが真偽は不明な情報」よりも、「確実な情報」を掲載して欲しいと願っています。
『三度のメシより事件が好きな元新聞記者が教える 事件報道の裏側』……事件報道に使われる「用語」について具体的に教えてくれるだけでなく、事件報道の裏側で何が起こっていたかも見せてくれて興味津々でした。
ここで紹介した以外にも、女子高生コンクリート詰め殺人(1989)では、少年刑務所に入っていた少年Aに、ある警部補が、「人を殺しちゃダメじゃないか、君のうしろに幽霊が見えるぞ」と言ったのをきっかけに、あの大事件が発覚したという驚きの経緯など、さまざまな「事件の裏側」を知ることが出来ました。
匿名報道や遺族への取材をめぐる記者たちの葛藤などもあり、事件記者の仕事についてリアルに知ることが出来ます。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
* * *
なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
<Amazon商品リンク>