『免疫「超」入門 「がん」「老化」「脳」のカギも握る、すごいシステム (ブルーバックス) 』2023/11/16
吉村 昭彦 (著)
ウイルスなどの病原体がどのように感染を起こし、免疫がどのように働くのか、その複雑な仕組みを、基本から分かりやすく解説してくれる本で、身体を守るための免疫がアレルギーの原因となるなど、ときには自分に攻撃的にもなるメカニズムについても解説。後半では、さまざまな病気との関連、特にがんとの関係で期待される免疫療法、さらには免疫と老化や脳の関係についての研究や、今後の医療への応用などについても紹介してくれます。
私たちの体には、次の5つの感染防御機構があるそうです(若い番号の防御が突破されると、次の番号の防御が働きます)。
1)バリア障壁(粘膜の上皮細胞や皮膚の角化細胞がしっかりシールされ、病原体を侵入させないようにする。粘液で病原体を洗い流す。)
2)インターフェロン(細胞はウイルスが来たことを察知すると、インターフェロンを出して周りの細胞に警告し、「ウイルス抵抗状態」にさせる。)
3)自然免疫(まだ抗体ができていない段階で働く免疫。NK細胞が感染した細胞ごと殺す。死んだ感染細胞や死にかけの感染細胞を好中球とマクロファージが食べて消化する)
4)獲得免疫(リンパ球(B細胞とT細胞)が働く)
5)記憶免疫(記憶リンパ球(メモリーT細胞、記憶B細胞)が残り、同じ抗原に対して速やかに活性化し増殖する)
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このように免疫機能の基礎知識を、分かりやすく詳しく教えてくれます。
さて、新型コロナウイルスの世界的感染拡大で、「免疫」への私たちの関心も高まりましたが、ワクチン接種前に渡される説明書を、きっちり理解するのは大変だったのではないでしょうか。この本では、ワクチンについても詳しく解説してもらえます。そのごく一部を紹介すると……
「ワクチンによる感染防御の主体は、抗体とキラーT細胞です。またB細胞に優れた抗体をつくらせるためにはヘルパーT細胞も欠かせません。これらの細胞は獲得免疫の主役たちですが、獲得免疫を誘導するには自然免疫を活性化する必要があります。精製したタンパク質成分だけのコンポーネントワクチンは自然免疫を活性化できません。そのためコンポーネントワクチンは、「アジュバント」と呼ばれる自然免疫を活性化する物質を加えて投与します。」
……そしてみんなが疑問に思っている「インフルエンザワクチンは、なぜ毎年のように接種しなければならないのか?」についても、次のように教えてくれました。ちょっと長いですが以下に紹介します。
「現在日本で使われているインフルエンザワクチンは、精製したウイルス粒子をホルマリンで不活性化し、そこから脂質をエーテルで取り除き、ウイルス表面のスパイクに当たるヘマグルチニンと呼ばれるタンパク質を精製して濃縮したものです。このように抗原となる成分だけを取り出したものを「スプリットワクチン」と呼びます。
インフルエンザウイルスのヘマグルチニンは変異が多いため、昨年のワクチンによってできた免疫記憶は、今年のウイルスに対して活性が低い。だから毎年打った方が良い。そう説明されることが多いです。これももちろん大きな理由なのですが、エーテル処理やヘマグルチニンの精製を行っているためにアジュバントになる成分が少ないことも理由の一つです。つまり強力に自然免疫を活性化する作用がなく、抗体やT細胞による十分な獲得免疫を誘導できないのです。そのため、翌年まで効果が続きません。
では、なぜインフルエンザワクチンにアジュバントを加えないのでしょうか? アジュバントには必ず副反応があります。多くの人が接種するワクチンなので副反応を懸念して、わざとアジュバントを加えていないのです。さらに、インフルエンザは多くの人がすでにかかった経験があります。このワクチンは、すでにある免疫機能を再活性して効果を引き出しているのです。記憶T細胞や記憶B細胞の再活性化には、自然免疫すなわちアジュバントはそこまで必要ありません。
インフルエンザワクチンは「感染しても重症化させない」ことに重点を置いたワクチン、ともいえます。実は、これが本来のワクチンの効能なのです。」
……なるほど、そういうことだったんですか……。
こんな感じで、免疫の基礎から、免疫系の関わる病気(アレルギー、関節リウマチなど)、さらには免疫とがん、免疫と脳との関係、そして免疫学の未来まで総合的に解説してくれる本で、とても勉強になりました。炎症や発熱は、実は私たちの自然免疫などが、病原体と戦っている証拠なんですね……。
老化や脳神経系の病気と免疫系の関係についても少しずつ解明が進んでいるようで、自分自身の免疫系を活性化させることで、老化や脳神経系の傷害を防止・回復させられるようになると本当にいいな、と期待させられました。
『免疫「超」入門 「がん」「老化」「脳」のカギも握る、すごいシステム』……免疫の仕組みや研究・医療について総合的に詳しく解説してくれる本です。みなさんも、ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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