『ジャーナリストの条件:時代を超える10の原則』2024/4/25
ビル・コバッチ (著), トム・ローゼンスティール (著), 澤 康臣 (翻訳)

 SNS上にデマや誤情報が氾濫し、権力者が都合の悪い情報をフェイクニュースと批判する時代に、ジャーナリストの仕事は重要性を増しています。いかに真実に迫るか、そもそもニュースの目的とは……ジャーナリストに求められる10の原則を語ってくれる世界的ロングセラーで、主な内容は次の通りです。
ジャーナリストはどこにいるのか[訳者]
第四版へのまえがき
序  章
第1章 ジャーナリズムは何のために
第2章 真実―最も大切で最も分かりにくい原則
第3章 ジャーナリストは誰がために働く
第4章 事実を確認するジャーナリズム
第5章 党派からの独立
第6章 力ある者を監視し、力なき者の声となれ
第7章 開かれた議論の場となるジャーナリズム
第8章 引き込む力、自分とのつながり
第9章 全体像を配分良く
第10章 ジャーナリストは自分の良心に責任を負う
第11章 市民の側の権利と責任
   *
「序  章」には次のように書いてありました。
「全盛期のジャーナリズムは、文化の中で他にはないものを提供するがゆえに、存続してきた。独立していて、信頼でき、正確で、全体像を伝える情報だ。それにより市民が自分たちを取り巻く世界を理解するため必要なものである。そうでない何かを提供しながらジャーナリズムと称するものは、民主主義の分化を破壊する。これは政府がニュースをコントロールするとき起こることで、ナチスドイツやソ連であったことだ。」
 ……今後のジャーナリズムも、「独立していて、信頼でき、正確で、全体像を伝える情報」を伝えて欲しいと願っています。そして……
「中でも最重要なのが、ジャーナリズムの目的とは、人々が自由であり自治ができるために必要な情報を提供することだということだ。
 その任務を果たすため、次の一〇か条が求められる」
 ……ということで、一〇か条の最初の5つを紹介すると……
1 ジャーナリズムの第一の責務は真実である
2 ジャーナリズムの第一の忠誠は、市民に対するものである
3 ジャーナリズムの本質は、事実確認の規律にある
4 ジャーナリズムの仕事をする者は、取材対象から独立を保たなければならない
5 ジャーナリズムは、力ある者の監視役を務めなければならない
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 ……というものです。実はこの一〇か条は目次と対応していて、1の真実は第2章、というように「+1」対応になっているので、残りの5か条は章タイトルから想像できると思います。
 なお最後の「第11章 市民の側の権利と責任」とは、「ジャーナリズムが裏付けある情報の独立した発信源として生き残れるかは、信頼できるニュースが入手できるかだけでなく、信頼できるニュースを市民たちが見分けられるかにもかかっている。」ということに関連していて、ジャーナリズムがそれまでの九か条で求められている機能を、きちんと果たしているかどうかをチェックし、必要ならば行動を起こすことが、一〇か条目では市民にも求められているのです。
 ところで、この一〇か条は、日本のジャーナリズムで論じられるものとは少し違っているようで、「訳者あとがき」には、次のように書いてありました。
「この本のエッセンスであるジャーナリズム一〇の掟には「真実」「事実確認」「良心」など、日本でも重視されるものが並ぶ。一方で、日本でしばしば論じられる中立や公平は、そこにはない。(中略)
 この本は明言する。「不偏不党や中立性はジャーナリズムの根本原則ではない。(略)客観性とは中立性や、両サイドが同じになるようバランスを取ることではなく」(二五四ページ)、大切なのは中立ではなく独立、とくに取材対象からの独立、力ある者からの独立だという。「ジャーナリストが重点を置き続けなければならないのは、魂と心のこの独立性であり、中立性でなく知の独立性である」(二五八ページ)」
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 ……確かに、中立性よりも「独立性」の方が実務的に役に立つような気もします。
 ところで一〇か条の最初の原則「真実」は、とても難しいのでは?(事実は見る方向によって変化するし、真実も同じように何が「真実」だとは決められないのでは?)と思ってしまいましたが、「真実」はすぐに手に入るものではなく、プロセスにあるそうです。
「真実とは複雑で、ときに矛盾もある事象だが、これを時間を積み重ねるプロセスだとみれば、ジャーナリズムも真実に到達できるものだ。」
 ……例えば警察や裁判所、医者が「真実」に到達するようなやり方で、じょじょに真実を積み重ねていくのだとか……なるほど、そういうことでしたか。
『ジャーナリストの条件:時代を超える10の原則』……ジャーナリズムはいかにあるべきかを深く考察していて、とても参考になりました。ジャーナリズムが正しい報道をし、求められる役割を果たしているかどうか、私たち市民の側もチェックする権利と義務があるようです。これからのジャーナリストは今まで以上にファクトチェック能力が求められますが、私たち自身も、ファクトチェック能力を培っていかなければならないなーと改めて再確認させられました。みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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