『アーサー王物語 解剖図鑑』2024/6/5
渡邉 浩司 (監修), かみゆ歴史編集部 (著)

 聖剣エクスカリバー、聖杯、円卓騎士団、魔術師マーリン、湖の騎士ランスロット……マンガやアニメ、映画、小説、ゲームなどさまざまなジャンルで愛され続ける中世ヨーロッパ最大のファンタジーを、歴史的背景や多数の関連作品、主要な登場人物、異説の紹介など、あらゆる角度から徹底解剖してくれる本で、主な内容は次の通りです。
【序章】「アーサー王物語」を読む前に知っておくべきこと
【第1章】英雄アーサー王が誕生し、円卓の騎士たちと世界を統べるまでのこと
【第2章】アーサー王の甥ガウェイン卿を中心とした円卓騎士団のこと
【第3章】最も穢れのない騎士ガラハッド卿と奇跡を授ける聖杯のこと
【第4章】ランスロット卿と王妃の不倫が円卓騎士団と王国の崩壊を招いたこと
【第5章】リオネスの王子トリスタンとアイルランドの姫イゾルデの悲劇のロマンスのこと

「まえがき」には、次のように書いてありました。
「「アーサー王物語」を壮大な織物にたとえるとすれば、<縦糸>となるのはブリタニア(ブリテン島)の英雄アーサー王の誕生から死までを描く一代記です。そして、魔術師マーリンや、トリスタンとイゾルデ(トリストラムとイソード)の悲恋など、もともと別個に発生していた物語群が<横糸>となって、「アーサー王物語」を色鮮やかに織りなしています。
 アーサー王が実在していたなら、そのモデルは(中略)、5世紀後半から6世紀前半にかけて大陸からブリタニアへ来寇したゲルマン系諸族を撃退したとされる、ブリトン軍のリーダーだと考えられます。」
 そして「【序章】「アーサー王物語」を読む前に知っておくべきこと」では、物語の世界観をかたちづくっているのは、ケルト諸語文化で……
「(前略)古代ケルトの人々は太陽を中心とした自然を信仰したほか、史実を反映した神話や伝承を持ち、なかでも妖精は身近な存在だったという。
 こうした信仰を司っていた神官をドルイドといい、時には王の助言役も担っていた。「アーサー物語」で王を導く魔術師として登場するマーリンは、まさにドルイドの属性を受け継ぐキャラクターだ。」
 ……なるほど。このケルトの太陽信仰は、騎士ガウェインに太陽の加護がある(太陽が昇る9時から12時までの3時間、本来の3倍の力を発揮できた)ことなどに読み取ることができるようです。
 壮大な「アーサー王物語」には、中世ウェールズの神話物語集『マビノギオン』や、『ブリタニア列王史』などが影響しているようですが、最大の影響を与えているのは、マロリーの『アーサー王の死』のようです。
 さて、「【第1章】英雄アーサー王が誕生し、円卓の騎士たちと世界を統べるまでのこと」で驚かされたのが、騎士たちが平等に席につけるようアーサー王がつくらせた食卓の「円卓」の座席数。なんと12~1600人と大きな幅があるそうです。1600人の円卓って、どれぐらいの大きさなんですか(笑)。もっとも円卓は「組織名」として使われることもあったようですが……。
 また無敵の魔術師という感じが強いマーリンが、実は悪魔の子として生まれたこと(キリスト教の影響でしだいにそうされていったようですが……)や、湖の貴婦人との愛に溺れて姿を消すことになった(湖の貴婦人に岩の下の穴の中に閉じ込められた)という話には、驚き(悲しみ)を感じてしまいました。……湖の貴婦人、強し……。
 そして考えさせられてしまったのが、「【第3章】最も穢れのない騎士ガラハッド卿と奇跡を授ける聖杯のこと」。最高の騎士のランスロットやガウェインが聖杯探索に失敗した後、最も穢れのない騎士ガラハッド(ランスロット卿の婚外子)が、パーシヴァルとボールスとともに聖杯探しに出かけ、ついに聖杯を手にとるのですが……
「ついに聖杯をその手にとったガラハッドは、身に余る光栄を感じ、このまま俗世に留まりたくないと望んで、聖杯の前に跪き祈りを捧げた。すると、天使が現れてガラハッドの魂を、天から降りてきた手が聖杯を運んでいく。友の死を目撃したパーシヴァルは、隠遁生活の末にこの世を去った。」
 ……なんていう結末になるのです。穢れのないものしか手にできない聖杯は、正しい道を示してくれるのかもしれませんが、人間を幸せにはしてくれないのかもしれないなーと思ってしまいました。
 なお聖杯は、「傷を癒したり、食料を振る舞ったりといった、神の恩恵を授ける器。神出鬼没だが、現れると芳しい香りが漂うという。形は定まっておらず、その効力もさまざま」なのだとか。
 この他にも、騎士ランスロットと王妃グウィネヴィア、リオネスの王子トリスタンとアイルランドの姫イゾルデという二組の恋人たちの悲劇的な恋や、ランスロットとガウェインという最高の騎士二人の戦いと死など、アーサー王物語のさまざまな場面の概要を知ることが出来ました。
 また「アーサー王物語」は多くの芸術家に創作のヒントを与えているようで、ドイツのオペラ作曲家のワーグナーも、アーサー王物語を題材にしたオペラ3作品(「ローエングリン」、「トリスタンとイゾルデ」、「パルジファル」)を作っています。
『アーサー王物語 解剖図鑑』……アーサー王物語は、いろんな漫画やアニメ、ゲームの素材に使われているので、部分的には知っていましたが、長大な物語の概要を知ることができて、とても参考になりました。ただ……せっかくイラストがたくさんあるのだから、「アーサー王物語」の世界観の衣装や建築物(内装も)、生活様式などを、もう少し詳しく知りたかったなーとも思ってしまいました。(イラストの服装には、あっさりした長い服や鎧が、ざっくりしたタッチで描いてありましたし、ランスロットやモードレットの顔がなぜか描いてないのです……)。
 えーと……聖剣エクスカリバー、聖杯、円卓騎士団、魔術師マーリンなど、多くの漫画やゲームでおなじみのアイテムやキャラクターの元ネタを知ることが出来る、面白くて勉強にもなる(?)本でした。ファンタジーの世界が好きな方は、ぜひ読んで(眺めて)みてください☆
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