『生きものたちの眠りの国へ』2023/12/26
森 由民 (著), 関口 雄祐 (監修)
「眠りとは何か」、「夢とは何か」を出発点に、生きものに睡眠にまつわるさまざまなトピックについて、ユーモアを交えつつわかりやすく解説してくれる本で、主な内容は次の通りです。
第1章 旅立ちのグッドナイト
第2章 眠りを見る目を練る――探究の歴史と成果
第3章 寝落ちしかねず鳥にしあらねば
第4章 寝方と寝床のア・ラ・カルト
第5章 これは眠りではない――閉じこめ症候群から冬眠まで
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「第1章 旅立ちのグッドナイト」には、「脳を持たない」線虫のCエレガンスにも睡眠があるように見えることが紹介されていました。
「行動観察」で「睡眠状態」と推測する基準は次の通りなのだとか。
1)概日リズムに従っている
2)動かず、特有の(決まったパターンの)姿勢をとる
3)感覚レベルが非常に低下している
4)「睡眠」と考えられる行動を妨げるとその後にはっきりと「睡眠」の時間が長くなる
……明らかに無防備な状態になる「睡眠」は、やはりすべての生物にとって、何かとても大事な働きをしているようです。
とても面白かったのが、「第2章 眠りを見る目を練る」の「鳥類」の睡眠の情報。なんと鳥類は、次のように、人間とはかなり脳の進化の仕方が違っているそうです!
・「(前略)恐竜としての鳥類の進化は、体はおしなべて小型化しつつも、脳は発達したという、発達した脳を持つ動物としては例外的なものです。鳥類の脳では一見、ほ乳類、ことにはヒトに見るような大脳の新皮質の発達はないのですが、は虫類一般に見られるDVR(背側脳室隆起、dorsal ventricular ridge)という構造があり、これが非常に発達しています。DVRは大脳内部の脳室と呼ばれるスペースに大きく突き出しています。ここには視覚情報が流れ込みます。これは、ほ乳類の大脳皮質の役割と似ており、また、詳細は割愛しますが、DVRから脳の他の部位への発信のつながりも大脳皮質と重なります。」
・「(前略)ほ乳類へと向かった単弓類のうち、脳のはたらきを高めることで環境順応したものたちは、大脳皮質を発達させるという道をたどったのに対し、双弓類の脳はDVRの形成と大型化・精密化という発達によって同様の進化をなしとげてきたということです。」
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しかも「第3章 寝落ちしかねず鳥にしあらねば」によると、鳥類の標準的な睡眠は1回に数分で、半球睡眠するものもあるようです。短く「うとうと」しながら(または半分の脳が眠った状態)で飛んでいるんですね! だから渡り鳥はあんな長距離飛行ができるんだ……。
それでも鳥類ももちろん脊椎動物なので、「すべての脊椎動物で脳の全体が大脳・小脳と脳幹と呼ばれる部位でできているのは変わりません。」だそうです。
「睡眠」については、まだ「しだいに明らかになりつつある状況」のようですが、睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠の2種類があることが分かってきています。
「神経どうしの結合の整理が行われるのがノンレム睡眠の間」で、ノンレム睡眠では「血管周囲腔の中が広がって脳脊髄液が流れやすくなり、脳をきれいに洗い流す」こともしているようです。
またレム睡眠中には、記憶の重みづけ(ノンレム睡眠による整理・定着の下準備としての記憶の選別)がなされているようです。また自律神経系の要となる視床下部のはたらきのメンテナンスも行われているようです。
そして「第4章 寝方と寝床のア・ラ・カルト」では、さまざまな動物たちの睡眠方法が、「第5章 これは眠りではない」では、一見意識がないように見える「閉じこめ症候群」や「冬眠」のことが、紹介されていました。「冬眠」は「睡眠とは大きく違うメカニズムに従う別々の行動」で、睡眠ではないようです。
『生きものたちの眠りの国へ』……タイトルと表紙のほんわかしたイメージとは違って、かなり専門的な内容まで踏み込んで説明してくれる本で、とても勉強になりました。森さんはユーモアセンスのある方で、ところどころでクスっと笑わせてくれるだけでなく、章の最後にまとめて書いてある補足説明の文章もとても読みやすいので、いつもは飛ばしがちなこの部分も、思わず読んでしまうぐらいでした(笑)。面白くて勉強にもなる本なので、みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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