『隕石:迷信と驚嘆から宇宙化学へ (文庫クセジュ)』2017/5/18
マテュー・グネル (著), 米田 成一 (監修), 斎藤 かぐみ (翻訳)
パリ国立自然史博物館の隕石研究者のグネルさんが、隕石の基礎知識から、発見の歴史、宇宙科学(太陽系の形成条件、天体の地質進化の機構、地球上の生命出現の背景状況を解明する試み)の現在までを詳細に解説してくれる本で、主な内容は次の通りです。
第一章 惑星科学と宇宙化学の基礎知識
第二章 隕石小史
第三章 地球上の隕石
第四章 隕石の見分け方
第五章 母天体から地球へ
第六章 コンドライトと太陽系形成
第七章 天体の地質進化
第八章 隕石と生命の起源
解説(国立科学博物館・米田成一)
参考文献と参考サイト
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隕石について総合的に学べる本で、とても勉強になりました。
「第一章 惑星科学と宇宙化学の基礎知識」によると、隕石とは……
・「天空から落ちた一ミリメートル以上の大きさの石を隕石という。最大の隕石は、ナミビアのホバで一九二〇年に発見されたもので、約六〇トンの重量がある。天空から落ちた一マイクロメートル(一〇〇万分の一メートル)~一ミリメートルの塵は微隕石と呼ぶ。」
・「衝突によって天体から?ぎ取られた岩石片が、隕石である。隕石の起源としては惑星、準惑星、衛星、小惑星、彗星が考えられ、それらを隕石の母天体と呼ぶ。」
……というもので、石質隕石(94.4%)、石鉄隕石(1.1%)、鉄隕石(4.5%)の三つに大別されるそうです。
「第二章 隕石小史」によると、「落下が目撃され、現代にいたるまで破片が保存されている最古の隕石」は、なんと日本にあるそうです。それが「八六一年に落ちてきた直方隕石」。なんと「神社の境内で拾われた隕石は、木箱に収められて現在まで社宝として保管され、その由緒が代々口伝されてきた。」そうです。専門家の調査で、隕石であることが確認され、普通コンドライトに分類されたとか。……神社に落ちてきた隕石って……なんか「御神体」とか「託宣」みたいな感じですね。
そして個人的に興味津々だったのは、「第三章 地球上の隕石」。ここでは、隕石についてとても詳しく知ることが出来ました。そのごく一部を紹介すると次のような感じ。
・「地球大気圏に突入する前の隕石を隕石体(メテオロイド)と呼び、隕石の大気圏突入による発光現象を流星(メテオール)と呼ぶ。」
・「隕石体は毎秒一一~七二キロメートルの宇宙速度で大気圏に突入する。隕石体の公転速度と地球の公転速度の差が突入速度となる。」
・「隕石の地球上への落下は、(中略)激しい音と光を伴う強烈な現象である。(中略)このエネルギーは熱(隕石外面の溶融)、光(流星の出現)、音波(ソニック・ブーム)の形で拡散する。」
・「隕石体の表面は、大気分子との高速衝突により、加熱されて溶融する。溶融した表面は気化し、大気圏内を下降するにつれて散逸する。隕石体が宇宙速度を失うと、表面が冷え、溶融と蒸発は止まる。地上に落下した隕石に見られる溶融被殻は、最後に溶けてガラス化した表皮であり(溶融した鉱物が急冷によってガラス化する)、数ミリメートルの厚みをもつ。」
・「隕石体は、それに匹敵する質量の大気とぶつかると、宇宙速度を完全に失う。」
・「質量が非常に大きく、巨大隕石と呼ばれる天体(小天体)は、宇宙速度を失うことなく超高速で地球表面にぶつかる。これを超高速衝突と呼ぶ。超高速衝突となる質量の下限は、隕石の着地角度、速度、性質によりけりだが、なかでも重要なのが隕石の性質だ。稠密な鉄隕石に比べ、石質隕石は隙間や割れ目が多く、大気圏内で破砕分裂しやすいため、衝突の威力も小さくなる。」
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ここで驚かされたのが、驚くほど多くの隕石が落下してきているという事実。次のように書いてありました。
「隕石と微隕石は地球各地に無差別で落下するが、年間の落下数はたいしたことがない。質量一キログラム以上の隕石で年間四四〇〇個ほどだ。多いように思われるかもしれないが、その大半は地球表面積の七一パーセントを占める海洋や、人の少ない地域に落ちてしまう。落下時目撃隕石は年間数個から一〇個あまりしかない。」
……そうか、目撃される隕石が少ないだけで、なんと質量一キログラム以上の隕石が年間四四〇〇個(!)も落下してきていたんですね……。
また隕石の落下年代の測定方法も、次のように知ることが出来ました。
「地球上で長い時間を経過したものもある発見隕石は、放射性年代測定法によって落下年代を測定する。隕石は宇宙を移動している間、宇宙線の照射を受けており、放射性核種の生成が起きている。それらの放射性核種の一部は飽和に達する。つまり生成率と崩壊率が等しくなる。そのような核種の存在度は、以後は地球に到達するまで変動しない。ところが地球に到着した後は、大気によって宇宙線から保護されるため、以後は放射性核種の壊変だけが起こる。そのような核種の測定時点での存在度は落下年代だけに依存するから、これを測定すれば落下年代を知ることができる。考古学で用いる炭素一四法と同様の方法である。」
さらに「第六章 コンドライトと太陽系形成」では、太陽系最古の物体について……
・「形成年代が四五億六七〇〇万~四五億六九〇〇万年の間の、太陽系最古の物体がカルシウム・アルミニウムに富んだ包有物(CAI)だ。これが現時点で、太陽系の年齢と考えられている。」
・「CAIの鉱物組成は摂氏一一〇〇~一五〇〇度で凝縮した太陽組成ガスと整合することが、一九七〇年代初めにシカゴ大学のグループによって発見された。その意味は、CAIが原子惑星系円盤内で凝縮によって固化した最初の物質と考えられるということだ。凝縮後に溶融を経たものは、球状の形と火成性の組織をもつようになった。溶融時の環境は、マグネシウムの重い同位体の濃集が示すように、蒸発も生じるほど希薄な環境だった。セリウムとユーロピウムの欠乏からは、CAIがコンドルールよりも還元的な環境で形成されたことが示される。」
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……隕石はいろんなことを教えてくれるんですね。
『隕石:迷信と驚嘆から宇宙化学へ』。隕石の基礎知識から、古代の人は隕石をどのように考えていたか、さらに最新の宇宙科学まで詳しく解説してくれる本でした。一般向けとはいえ、内容がかなり専門的なので、読むのはかなり大変でしたが、とても勉強になりました。宇宙科学が好きな方は、ぜひ読んでみてください☆
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