『耳は悩んでいる (岩波新書 新赤版 2000)』2023/12/22
小島 博己 (編集)
とても繊細で未知な部分も多い耳の構造や、子どもや大人が罹る病気などの解説、さらに認知症との関連など最新の知見も紹介してくれる耳の本で、内容は次の通りです。
はじめに 患者だった私……………小島博己
Ⅰ いろいろな耳の症状……………髙橋昌寛
Ⅱ 耳の構造……………山本 裕
Ⅲ 耳のはたらき……………今川記恵
Ⅳ 耳の病気……………山本和央
Ⅴ 症状からはわかりにくいが、実は耳が原因だった……………加藤雄仁
Ⅵ 耳の症状に隠された別の病気…………… 中条恭子
Ⅶ 耳と認知症……………栗原 渉
Ⅷ 耳の病気の治し方……………櫻井結華
Ⅸ 聞こえを助けるツール……………櫻井結華
Ⅹ 耳の病気の予防……………櫻井結華
おわりにかえて……………小島博己
主な参考文献
執筆者一覧
*
「Ⅰ いろいろな耳の症状」には、耳に関して、とても大事なことが書いてありました。
・「耳の炎症の主な原因は、耳掃除のしすぎなど物理的な刺激によるものであり、耳がかゆいからと、さらに綿棒などでいじってしまうことで症状が悪化し、悪循環に陥りやすい。」
・「耳が痛くなる原因は、主に耳に炎症が起こる疾患で、子どもの場合は「急性中耳炎」、大人の場合には「外耳炎」が多く見られる。ほかにも、さまざまな原因が挙げられる。」
*
「耳掃除のしすぎ」は、耳のトラブルの大きな原因になるようです。読書の途中でも、気分転換のために、つい耳掃除がしたくなることがありましたが……今後は自粛しなければ……。
続く「Ⅱ 耳の構造」では、耳のメカ的な構造(笑)を知ることが出来て、とても興味津々でした。例えば鼓膜は……
「外耳道の突き当りで中耳との境界に位置する鼓膜は、楕円形をした膜で、その大きさは八から一〇ミリメートル、厚さは〇.〇三から〇.一ミリメートル程度である。鼓膜は外耳道の皮膚と連続する皮膚層、繊維成分に富む固有層、中耳粘膜と連続する粘膜層の三層からなっている。
形状は平面ではなく、パラボラアンテナのように中心部がくぼんでいる。また辺縁の鼓膜輪といわれるフレーム状の構造により形状が支えられており、音の振動がキャッチされやすい構造になっている。」
*
そして中耳の三つの骨(ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨)については……
・「三つの耳小骨を伝わる過程で、耳小管がテコのように働くため、テコ効果により、振動は約一.三倍に増幅される。また鼓膜が受け止めた音のエネルギーは、耳小骨の最後の骨であるアブミ骨の底板に集められる。鼓膜とアブミ骨の底板の面積比は一七対一であるため、音のエネルギーは一七倍に集中、増幅される。(中略)
前に述べたテコ効果によるものと合わせて、中耳により音のエネルギーは、約二二倍(一.三×一七)に増幅されて内耳にリレーされる。」
・「これらの伝音効率が発揮されるためには、中耳の中が外界と等しい圧になるように調節されている必要がある。そのため中耳は耳管という管により鼻咽腔(鼻の奥)とつながっており、圧力の差が生じた場合にその差を是正するように耳管が働いている。
ただし耳管が常に空きっぱなしになっていると、自分の声や呼吸音が中耳に流入して障害となってしまう。そのため、ふだんは閉じているが嚥下のときだけ開いて圧を調節するような巧妙な機能を耳管は持っている。」
*
さらに「Ⅲ 耳のはたらき」では、両耳があることは、音源の位置が分かるだけではない利点があることを知りました。
「両耳があることで、両耳加算効果(音を大きく感じることができる)、音源定位(音の方向がわかる)、カクテルパーティー効果(騒音下でも、ことばを聴きとることができる)といった効果が得られやすい。」
また、ここでも内耳のメカ的な構造に興味津々。
「内耳は、音の感覚器官である蝸牛と、平衡器官である前庭・半規管(前庭器)で構成されている。また、前庭器はジャイロのように、重力や方向の加速度を感知できる。蝸牛は聴覚器のセンサー、前庭器は平衡感覚器のセンサーとしての働きがある。」
……この前庭器は、老化で機能が低下していくようです。
「前庭器も、蝸牛と同様に有毛細胞や前庭神経が分布するが、加齢にともなう変性と委縮により、その数は減少する。
また、加齢により、筋力や体性感覚が鈍くなり、さらに脳の中枢機能の変化によって、高齢者はふらつきやすく、転倒しやすい(加齢性平衡障害)。そのための対策として、筋力トレーニングや足底の感覚強化、杖の有効活用などが推奨されている。」
*
また「Ⅴ 症状からはわかりにくいが、実は耳が原因だった」にも、耳のメカ的な説明がありました。
・「空間識を構成する代表的なものは「視覚」「深部感覚」「前庭感覚」の三つであり、その情報は小脳で構成されている。(中略)
空間識を構成するなかで最も重要な感覚が「前庭感覚」であり、それを感知するのが耳の役割となっている。前庭感覚は耳の中にある半規管と耳石器という二つの器官で感知されている。」
・「半規管は、頭部を回転した場合に生じる回転加速度を受容する器官である。Cの字のような形をしている器官で、なかにリンパと呼ばれる液体と、クプラと呼ばれるゼリー状のセンサーがある。頭を回転させるとリンパが動き、その動きをクプラが感知する仕組みとなっている。」
・「耳石器は、直線加速度を受容する器官である。毛のような台座の上に耳石と呼ばれるおもしがのっており、その耳石の重さを利用してセンサーが加速度を感知している。」
*
……耳は、巧妙な仕組みで出来ているんですね!
そして「Ⅶ 耳と認知症」では、難聴が、認知症の最大のリスク因子であることが書いてありました。
「難聴を悪化させる要因」には、「騒音や強大音(大きな音が繊毛を傷つける)」、「糖尿病(高血糖状態が続くと血管や神経の損傷で聴覚能力が低下)」、「喫煙(ニコチンの毒性やカルボキシヘモグロビン(酸素を運べない異常なヘモグロビン)の増加など)」があるようです。糖尿病や喫煙が難聴を引き起こすことがあるのは、驚きでした。これらは血液に問題を起こすから、耳だけでなく全身に問題を起こすのでしょう。
とても驚いたのは、「Ⅸ 聞こえを助けるツール」で、補聴器の次のような性質を知ったこと。
「補聴器は、小さな音響機器である。外界からの音をマイクで拾って音声処理を行い、レシーバーから出力して耳の中へ伝える。(中略)
補聴器は、あらゆる難聴が適応となるが、適した補聴器の種類や調整(フィッティング)に関しては専門家との連携が不可欠である。補聴器は眼鏡とは少し異なり、かけたらすぐにパッと聞こえるようになる、というものではない。」
……そうなんだ。補聴器には調整や慣れが重要なんですね。
耳について、総合的に学ぶことが出来る本でした。今のところ耳にはトラブルを感じていませんが、いつまでも健康な聴覚を保っていられるよう、今後は「耳掃除を控えること」と運動などの健康習慣を続けるようにしたいと考えています。
耳を健康に保つことは認知症を予防することにもつながるようです。健康長寿のためにも、みなさんも、ぜひ読んでみてください。
* * *
なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
<Amazon商品リンク>