『シン・情報戦略 誰にも「脳」を支配されない 情報爆発時代のサバイブ術』2023/7/3
米重 克洋 (著)
情報を集めて活用するときには、間違っても他人に脳を支配されないことが重要。自ら知りたい情報を集めて信頼性を確かめ、自ら最善の意思決定をしていく……リスク情報をAIで収集・分析するFASTALARTを運営している米重さんが、爆発的に情報が増えている「不確かな情報の時代」を生き抜くためのヒントを与えてくれる本で、内容は次の通りです。
第1章 「国民的○○」が消えた──個人がマスコミ以上の力を持つ時代に
第2章 良質な情報が「有料の壁」の向こう側に流れるメカニズム
第3章 消費者が発信する時代の光と影、報道産業の3大課題、その解決策
第4章 OSINT全盛時代 ビッグデータの海から価値ある情報だけを集める
第5章 アンケートで世論やマーケットを知る
第6章 世論調査は信用できるのか? アンケートに潜む「罠」
第7章 身近な「デマ」「陰謀論」のリスクからどう自己防衛するか
第8章 役に立たなくなった「情報収集のハウツー」
第9章 「他人に脳を支配させない」情報収集のための武器
第10章 質の高い情報収集を習慣化するためのTIPS
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「はじめに」には次のように書いてありました。
「本書は、これらテクノロジーでビジネスとジャーナリズムの両立を実現すべく「報道の機械化」というミッションに取り組んできた筆者が、現代の情報流通の構造を見渡し、その結果生じた「消費者が発信する時代」もとい「情報爆発の時代」の光と影を見つめ、私たち一市民がとり得る最善の「情報戦略」を考えるものだ。」
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「第2章 良質な情報が「有料の壁」の向こう側に流れるメカニズム」では、情報が溢れるなか、良質な情報が有料化されつつあることが、次のように指摘されていました。
・「(前略)要は、文脈を共有できる(言い換えると話の通じる)フォロワー、ファンだけを有料の壁の中に囲い込んで、その人だけに発信する。その発信手段に適した収益獲得のモデルが課金である、ということなのだ。」
・「(前略)報道機関の側では、取材にお金のかかるコンテンツはポータルサイトなど無料媒体には極力提供せず、どんどん有料の壁の中に閉じていこうという動きが進んでいる。」
・「(前略)良質なコンテンツはその多くが有料の壁の向こうに流れ続けている。一方で、無料で大量に発信されるコンテンツは、その品質が年々劣化し、時に見る人の思考や意思決定を悪い方向に歪めてしまう。」
また「第3章 消費者が発信する時代の光と影、報道産業の3大課題、その解決策」では、報道機関の置かれている厳しい状況とともに、次の3つの構造的課題があることが書いてありました。
1)人海戦術前提の構造で、相応に高コストな体質になっている
2)インターネットやスマホ上のプラットフォームに情報の流通を奪われて、収益機会を喪失している
3)多メディア化で、競争相手が劇的に増えている
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……報道機関はコストの切りつめで競争力を失いつつあり、公的な役割を果たすどころか、どんどん縮小して支持を失ってしまう悪循環(負のスパイラル)に陥りかねない状況にあるようです。
そして、これに対する解決策として、次の「テクノロジーを動員した報道産業革命」が提案されていました。
「人海戦術ではなく、高度に機械化された状態で「確かな情報」を社会に迅速且つ大量に供給できる状態を作る。そのうえで、人間は人間にしかできない良質なコンテンツを生み出すことに集中する。そうして生産性を引き上げることで、質と量それぞれを最大化して接触時間の最大化を図っていく。」
……そのための手本にもなり、支援にもなるものとして、米重さんがやっているFASTALARTがあるようです。FASTALARTは、各種SNSプラットフォーム上の投稿や各種アプリから収集したビッグデータをAIで分析し、災害や事故、事件など実空間で生じているリスク事象をいち早く検知するしくみで、NHKと全ての民放キー局で導入されるなど、今や業界標準のOSINTツールなのだとか。(注:OSINTとは、公開情報を収集、分析する諜報活動のこと)
また個人的に一番参考になったのが「第9章 「他人に脳を支配させない」情報収集のための武器」。その一部を紹介すると、次のような感じです。
・「情報収集するテーマ、領域を絞り込み、それを日常的にこなせるほど習慣化すれば、その領域においては「確かな情報」を常に見分けて、それについての自分自身のスタンスをとれるだけの専門値を常にアップデートし続けられる。」
・「良いエージェントを発見できれば、情報収集の速度も、「確からしさ」の検証や「価値判断」も段違いに向上する。」
・信頼できるエージェントの見分け方は……
1)明確な専門性がある(何にでも通じているわけではない)
2)それを裏づけるバックグラウンドや実績がある
3)極論を言わない
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……なるほど確かに。また「すべての発信者にはバイアスがある」ので、
「(前略)他人やメディアからバイアスのない情報収集ができると思ってはいけない。
だとすれば、他人の情報に含まれる意見は「意見」として受け止めたうえで、事実は事実として取り出すスキルが必要となる。」
……とも書いてありました。
ちょっと意外だったのが、「両論併記」には、注意が必要だと書いてあったこと。公平な判断を下すためには、両論併記が効果的だと考えていたのですが、例えばウクライナ侵攻をめぐるロシア国営メディアの報道などで見受けられたように、「両論併記」することで公平感を偽装する場合があるようなのです。次のように書いてありました。
・「両論併記によって公平性を保つべしという説はあくまで「意見」と「意見」の対立がある時の作法であって、「根拠のある事実」と「嘘」を併記すべきというものではないからだ。」
・「情報収集をするうえで「事実」と「意見」を切り分けて、いかに確かな事実に基づかない意見を自分の認知領域から排除できるかが重要な時代になっている。「バランスの良い情報収集」とか「両論併記的な報道」を求めるのは、その後でいい。」
……なるほど……「両論」が書いてあると、どちらも「同じぐらい正しくて重みのあるもの」と誤認してしまう危険性があるような気がするので、たとえ両論が書いてあったとしても、その両方が同じぐらいの重要性のある「事実」なのかどうかを、まず精査すべきなのでしょう。
そして私たちが適切に情報収集を行うためには……
「こだわる領域をある程度絞ったうえで、信頼できるエージェントを見つけて、そこから情報を得る習慣を得る。事実と意見を切り分けて、極論を押しつけないエージェントを選んでいく。そして、その収集の結果生まれた成果は世に発信していく。それにより、更に情報が集まる状態を作る。これが、情報爆発時代の情報収集の最適解である。」
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『シン・情報戦略 誰にも「脳」を支配されない 情報爆発時代のサバイブ術』……爆発的に増えた情報のなかで、何が「確かな情報」で自分にとって真に「価値ある情報」なのかが誰にもよく分からない時代になりつつある時代に、私たち一市民がとり得る最善の「情報戦略」を考えるヒントを与えてくれる本でした。とても参考になるので、みなさんもぜひ読んでみてください☆
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