『生物学大図鑑 (世界を知る新しい教科書)』2023/10/26
メアリ・アージェント=カトワラ (著), 左巻 健男 (監修)
分かりやすい文章と充実の図表で、生物学の主要分野を網羅的に解説してくれる『生物学大図鑑』で、英DK社の人気教養シリーズ第一弾です。
ハードカバーの大型で、ずっしり重い本です。最初にパラパラ眺めた時は、日本のNewtonの大型図鑑シリーズと比べて、美麗な大型イラストが少なく、文章が多めだなーとちょっと苦手意識を抱いてしまいましたが、実際に読んでみると、内容はとても分かりやすくて充実したものでした。
『生物学大図鑑』というタイトルですが、内容的には、生物学(+医学)の研究経緯を中心に、生物学(+医学)について総合的に教えてくれる図鑑です。
「イントロダクション」によると、生物学には次の4分野があるそうです。
1)細胞説(どんな生物の体もすべて細胞という基本単位でできている)
2)進化論(生物は生きるために変化でき、現に変化している)
3)遺伝学(すべての生物においてデオキシリボ核酸(DNA)が細胞の構造を決定するとともに、次世代に受け継がれる)
4)恒常性(生物は体内の状態を一定に保つ))
……本書はこの4つを9章に分けて、根本的な原理や、生物学の主な学説とその重要性を解説してくれます。
例えば「第1章 生命」では、最初の見開きページで、「生命(特に細胞説)」の重要な研究の歴史についての概説があり、続いて「人体の中を除く窓(実験生理学)」という個別テーマが始まって、このテーマの主要人物のベルガモン・ガレノスの行った実験(動物の解剖実験など)の解説や、彼の前にどんな研究が行われていて、彼の後にはどんな展開になっていったかが紹介されていました。この「各学説は、歴史的な文脈の中でどんな位置づけにあり、どのように発展したか」が全テーマの左端についているのが、とても分かりやすく、参考になります。他の『生物学大図鑑』では、あまり見ない切り口で、新鮮に感じました。
この本はイラストが少ない分、一つ一つのテーマを「読み物」みたいに読むことが出来て、全体を通して読むと、生物学(+医学)のたどってきた歴史的経緯を概観するような形で、生物学の総合的な知識を学んでいけます。もっとも内容は生物学の有名な研究ばかりなので、すでに知っている内容が多かったのですが、全体をしっかり復習できて、とても読み応えがありました。
そのなかから、個人的にかなり興味津々だった「第9章 生態学」の「炭素循環」について紹介すると、炭素循環には、次の「遅い循環」と「速い循環」があるそうです。
「遅い循環」とは……
「(前略)大気中の炭素が弱酸性の炭酸の形で、雨として地上に降り注ぎ、岩石と反応して化学的に風化させる。風化で放出された炭酸塩は川によって海に運ばれ、水生生物の体内に取り込まれる。水生生物が死ぬと、死骸は海底に沈む。何百万という時間をかけて、その死骸が圧縮されて、炭素を多く含んだ堆積岩ができる。
以上の過程に由来するものが、岩石中の炭素の約80%を占める。残りの20%は頁岩(粘土質の堆積岩)内の有機物の形で、あるいは地熱と地圧の作用で作られた石油や石炭、天然ガスとして存在する。それらの化石燃料が採掘されて燃やされると、炭素は大気中に戻される。
海は大気中から二酸化炭素を吸収するとともに、それを大気中に放出してもいる。そのサイクルは岩石よりいくらか遅い。」
そして「速い循環」とは……
「(前略)生物が呼吸すると、大気中の酸素が体内に取り込まれ、エネルギーと、水と二酸化炭素が放出される。植物や植物プランクトン(海の微生物)は、光合成の原料として二酸化炭素を利用する。(中略)
動物は植物プランクトンや植物やほかの動物を食べ、やがて死ぬと、自分がほかの動物や菌類や細菌に食べられる。体内に閉じ込められていた炭素は、それらの分解者に受け渡され、さらに土壌へと移動する。(そしてまた大気へ)」
……これらの説明が、すごく分かりやすく感じました。(なお、本書ではもっと詳しく説明されています)。
『生物学大図鑑 (世界を知る新しい教科書)』。生物学の研究の歴史とともに、生物学について総合的に学べる本でした。とても勉強(復習)になるので、生物学や医学に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。(ただし大型で非常に重く高価な本なので、購入する場合は、事前に書店や図書館などで実物を確認することをお勧めします)。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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