『〈標本〉の発見 科博コレクションから』2023/11/27
国立科学博物館 (著, 編集)
日本随一のコレクション数を誇る国立科学博物館の美しい標本と、それぞれのストーリー。科博の研究者14名が選んだ、絶滅種、絶滅危惧種を中心に、トキ、ニホンオオカミ、ニホンカワウソ、クニマス、冬虫夏草、タガメなど150種超。美しいカラー図版に、それぞれの種にまつわるエピソードを添えて、その絶滅や復活、科学の最前線を紹介してくれるヴィジュアルブックで、国立科学博物館の企画展「発見! 日本の生物多様性」(2021年)を再編集して成書化したものだそうです(※恐竜を含む古生物、岩石・鉱物、理工学機器類の標本は扱っていません)。
主な内容としては……
1章(ⅰ):日本において絶滅判定を受けた生物の紹介。
2章(ⅱ):いったん絶滅宣言が出されたものの野生個体が再発見された種の紹介。
3章(ⅲ):絶滅寸前種(絶滅危惧種の中でも、特に絶滅のおそれの高いもの)をとりまく状況を生物群ごとに紹介。
4章(ⅳ):ヒトの営みに翻弄されて生息状況が大きく変わってしまった生物の紹介。
5章(ⅴ):標本とリビングコレクションが互いに補い合って生物多様性保全に貢献している事例。
6章(ⅵ):標本を活用した新展開(成功事例の紹介)。
……です。
「1章 幻となった生き物」として最初に紹介されるのは、ニホンオオカミの骨格標本で、その次のページは生きているみたいなニホンオオカミの剥製でした。日本で確かに生きていたはずのニホンオオカミが、今はいないことに何とも言えない気持に……。その気持ちは次のページの愛らしいニホンカワウソの姿で、さらに悲しい方向へと向かってしまうのでした……(涙)。
そして、この章では、絶滅したトキの剥製とともに、トキエンバンウモウダニという小さいダニも紹介されていました。なんとこのダニは「トキに添い遂げて絶滅したダニ」で、特定の種やグループの鳥にしかつかないダニの場合、宿主である鳥種がその個体数を減らすことで、依存しているダニも危機的な状況に陥ってしまうそうです。
この章では、「日本から消え、地球上からも消えた8種の種子植物(タカノホシクサ、チャイロテンツキなど)」も紹介されていて……「絶滅した生物」というと、直感的に「動物」を思い浮かべてしまいがちですが、植物や微生物も当然含まれるはずですよね……。
続く2章では、いったん絶滅宣言が出されたものの野生個体が再発見された種として、シマクモキリソウ(小笠原諸島で発見されたラン科植物)が紹介されていました。79年ぶりに再発見され開花、繁殖に成功したそうです。次のように書いてありました。
「栽培されているシマクモキリソウは世界でわずか3個体です。種子から繁殖させなければいずれ絶えてしまいます。ラン科植物は種それぞれが特定の菌類と共生しないと種子発芽しない特殊な性質があり、シマクモキリソウも例外ではありません。南硫黄島から株が届いたとき、シマクモキリソウの体内の共生菌を取り出して保存していたので、すぐ繁殖に取りかかることができました。」
……再生させるときには「生育環境」だけでなく、「共生」についても考慮する必要があるんですね……。
そして5章では、「標本」ではなく「リビングコレクション」について、次のように紹介されていました。
・「植物園や動物園・水族館は、さまざまな生物を生きたまま守ることができる貴重な施設です。絶滅が危ぶまれる種の遺伝的多様性を失わないようコレクションは管理され、必要に応じて野生復帰を行います。また、コレクションを使って種の生物学的特性を明らかにする研究を、保全に役立てています。」
・「植物園で生育域外保存を行っている植物の株は、いつかは寿命を迎えて枯死してしまいます。日本産個体群のさらに安定した系統保存を目指して、科博の筑波実験植物園では保有している絶滅危惧種から胞子を採取し、それを培養することにより個体の増殖を進めています。」
……リビングコレクションの方が、標本よりも、その生物について圧倒的にいろいろなことを教えてくれるので、このような活動はとても大事だと感じました。
さらに6章では、古い植物標本の「おし葉標本」に残されたサナギや食害の痕跡からランミモグリバエが在来種であることを証明した事例などの、とても興味深い記事を読むことができました。
『〈標本〉の発見 科博コレクションから』……絶滅した生物などの、とても貴重な標本写真をたくさん見ることが出来るだけでなく、採集から研究への活用に至るまでの標本にまつわる豊富なストーリーや、標本からDNAを得る方法、標本を良い状態で保つ工夫まで、さまざまなことを知ることが出来る本でした。博物館好きの方は、ぜひ読んでみてください☆
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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