『生成AI 「ChatGPT」を支える技術はどのようにビジネスを変え、人間の創造性を揺るがすのか?』2023/7/5
小林 雅一 (著)

 人工知能とそれを支えるクラウド技術などの進化を長年追い続けてきた小林さんが教えてくれる「今後10年の社会変革を理解するためのベーシック・レポート」です。
 最近話題のChatGPTなどの大規模言語モデルで誕生した「言葉を理解し、それを自在に操るAI」によって、「AIが私達と“ごく自然に”会話できる」ようになりつつあります。 私たちが言葉で「あれしろ、これしろ」と言うだけで、コンピュータのプログラミングやデバッグ(誤り訂正)、表計算ソフトの複雑な操作、大量文書の要約などをしてくれるのです。
 このような頭脳労働のAIによる自動化で、社会全体の生産性が革命的に向上することとともに、人間の仕事がAIに奪われるという懸念も高まってきています。
 この本は、生成AIが私たちの社会(教育、ビジネス)や創造性をどう変えていくのかを、生成AI技術の最新動向を踏まえて、じっくり考察しています。
飛躍的に向上しつつある「自然言語処理の生成AI」のChatGPTなどは「トランスフォーマー」と呼ばれる新たなモデル(予測方式)を採用していますが、これはグーグルの研究チームが2017年に発表した論文「注意こそ必要とされるすべてだ」で提唱されたものだそうです。
 この「トランスフォーマー」の中核要素の「自己注意」メカニズムについて、分かりやすく要約されていましたので、以下に紹介します。
「自己注意メカニズムはニューラルネットに入力された文章の各単語を、他のすべての単語との関係性に基づいて重み付けする。つまり、ある単語から見て、別の単語が「自分にとってどの程度関係して重要なのか」を計算するのである。
 このような仕組みによって、文脈に応じた単語のベクトル表現が得られる。つまり単語の意味やそれが指す対象などは固定されず、むしろ周囲との関係性によって変化する。こうした柔軟な言語表現が(中略)複雑な文脈の理解を助けるとともに、あたかも人間が書いたかのような自然な文章の生成を可能にしたのである。
 またトランスフォーマー・モデルは構造的には直列的なネットワーク構造のRNN(注:再帰型ニューラルネット)よりも、むしろ並列的な構造のCNN(畳み込み型ニューラルネット)とよく似ている。このためトランスフォーマーは多数の単語を逐次的(順番)に処理するRNNとは対照的に、すべての単語を同時並列的に処理することができる。
 これは前述の自己注意メカニズム、つまり個々の単語を他のすべての単語との関係性に基づいて重み付けする仕組みを可能にすると同時に、大量の文書などビッグデータの処理に要する時間を大幅に削減することもできる。また非常に長い文章のなかで、遠く離れた単語同士の依存関係を捉えるにも効果的だ。」
 ……またグーグルの大規模言語モデルのBERTは、一部をマスクした文章を隠して入力し、そこで隠された部分を言語モデルに予測させた後で、正解を教えるという方法で、正しい言葉の予測方法を学んでいるようですが、これについても具体例で解説されていて、とても分かりやすく感じました。
 この本は「生成AI」のこれまでの歴史や、ChatGPTなどの現在の大規模言語モデルの実力、巨大IT企業の競争、生成AIが社会に及ぼす影響や著作権問題などについて、総合的に分かりやすく解説してくれて、とても参考になりました。
 ChatGPTはデタラメな答えを返すことも多いようですが、その一方で、すでに司法試験や医師国家試験では合格ラインを超えたと言われているほどの実力も発揮しつつあります。実は、生成AIの登場によって人間が奪われることになる職業は「頭脳労働」の方で、「肉体労働」は人間に残るのかもしれないのだとか。身体を正確に制御するのは、とても難しいからだそうです。
 また生成AIは、「ネット上のトラフィックを大きく変化」させる可能性があるそうです。「検索エンジンと対話型AIの融合がメディアに与える影響」として、次のように書いてありました。
「従来、グーグルなどの検索エンジンから各種メディアのウェブサイトへと流入してくるトラフィックは、新聞、雑誌、テレビ局などメディアの大きな収入源となってきた。(中略)
 しかし今後、もしもインターネットを利用するための主な手段が検索エンジンから対話型AIへと切り替わってしまえば、検索エンジン経由のトラフィックとそれによる潤沢な収益が大幅に失われてしまう恐れがある。(中略)
 対話型AIではユーザーが求める答えがその場で表示されてしまう。つまり「自己完結的」になるため、ユーザーが従来の検索結果として表示されるリンク・アドレスをクリックして、メディア各社のウェブサイトへと移動する必要性が大幅に小さくなる。」
 ……なるほど……これって、影響を受けるのは「メディア」だけではないような……多分あらゆるウェブサイトが影響を受けてしまうことになるのでしょう。マイクロソフトの検索エンジンBingにChatGPTが搭載されていても、あまり変化が感じられなかったけど……今後、私たちの行動は、じわじわ変わっていくのかも……。
 この他にも、「フェイク画像問題」や「著作権問題」など、さまざまな課題が取り上げられていました。
 これらにどう対応していくのか、私たち一人一人が真剣に考えなければいけないのでしょう。そのために役立ちそうな情報もあるようです。
「日本ディープラーニング協会(JDLA)は2023年5月、「生成AIの利用ガイドライン」を発表した。これにはChatGPTをはじめ生成AIへの個人情報などデータの入力で注意すべき点や、その結果として出力される文章や画像のようなコンテンツに関する著作権法上の留意点などが盛り込まれている。」
『生成AI 「ChatGPT」を支える技術はどのようにビジネスを変え、人間の創造性を揺るがすのか?』……生成AIについて総合的に解説してくれる本でとても参考になりました。今後が生成AI社会をどう変えていくのかを知りたい方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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