『ティラノサウルス解体新書』2023/4/1
小林 快次 (著)
ティラノサウルス類全般を体系的に教えてくれる本で、第一部「ティラノ軍団の現在」では、ティラノサウルス類全種についての最新研究を、第二部では、ティラノサウルスの特徴や生態について解説してくれます。
第一部「ティラノ軍団の現在」によると、世界的に有名な恐竜化石の産地のヘルクリーク層で発掘された、白亜紀の終わりにこの一帯に棲んでいた恐竜の数は次の通りだそうです。
1位 トリケラトプス 73
2位 ティラノサウルス 44
3位 エドモントサウルス 36
4位 テクケロサウルス 15
5位 オルニトミムス 9
6位 パキケファロサウルス 2
6位 アンキロサウルス 2
(計181体)
なんと捕食者頂点のティラノサウルスが、24%もいたのだとか(通常は非捕食者の割合が全体の75%以上だそうです)……この数を見て、ひょっとしてティラノサウルスは雑食か、共食いをしていたのかも……と想像してしまいました。(実は本当に共食いをしていたようです。)
現時点で、ティラノサウルスの仲間は18種いて、最初のティラノサウルス類の登場はジュラ紀中期で、最強は北アメリカのティラノサウルスとアジアのタルボサウルス(どちらも白亜紀に活躍)なのだそうです(ただし残念ながら隕石衝突のせいで(?)絶滅してしまったので、活躍時期は短かったようですが……)。
こんな大きな恐竜たちが、なんと山脈や大河を超えて、かなりの長距離を移動していたようで……大きな山や河を超えていく大型恐竜……想像すると、なんか凄いですね☆
この本は、表紙の写真もカッコいいですが、冒頭にはトリケラトプスを襲っているティラノサウルス、ブラック・ビューティなどの有名なティラノサウルスの化石写真(カラー)もあって、とても見ごたえがあります。
しかもこれらの化石は、見た目が凄いだけでなく、いろんなことを教えてくれるようです。次のように書いてありました。
「体の骨を研究すると、その恐竜の成長具合がわかります。骨を薄く切断し、その断面を顕微鏡で観察すると、成長停止線というものや、骨の微細構造も見ることができます。このような研究を骨組織学と呼びます。」
「成長具合を検討するのに、他にも方法があります。それは、骨の癒合具合を見ることです。」
さまざまな研究から、ティラノサウルスの首、腰、尾の部分にパッチ上にウロコの痕跡があったとか、顎や歯の構造からティラノサウルスが肉食だったのは明らかとか、分かっているようです。その他にも、次のようなことが書いてありました。
・ティラノサウルスの噛み跡と思われるものが残ったトリケラトプスやエドモントサウルスの化石がある。
・噛み跡からは、ティラノサウルスが器用に肉を?がしながら食べていたことが推定される。
・ティラノサウルスは30歳前後が寿命かもしれない。
・ティラノサウルスの武器は顎や歯で、感覚器官(聴覚・視覚・嗅覚)もすぐれていたと考えられている。
・ティラノサウルスの三半規管の形状から、俊敏性、迅速性、行動性が高かったと推定されている。
・ティラノサウルスの蝸牛管は長く、低周波数を聞き取れる耳を持っていたことがうかがえる。
・ティラノサウルスには55程度の視野の重なりがあり、立体視に優れ、待ち伏せではなく追跡型の狩りをしていた可能性がある。
・ティラノサウルスの顎の力は超強力だった
・ティラノサウルスは走れなかったと思われる(歩く速度は時速4.6キロ程度でヒトとほぼ同じ)。
・ティラノサウルスは腰と後ろ脚の筋肉で体をすばやく回転できたと思われる。
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ティラノサウルスに羽毛があったかどうかは不明ですが、ティラノサウルスの仲間の化石(ディロングとユティラヌス)には、羽毛の痕跡のあるものがいるようです。……羽毛が進化した恐竜がやがて鳥類に……なんか不思議な気もします。
ティラノサウルスについて、いろんなことを知ることが出来る本でした。
ただ……『解体新書』というタイトルだったので、大きな骨格図とか大きな復元図などがたくさんあって、この部分にはこんな臓器があって、こちらには別の臓器が……みたいな感じにみっちり書いてあることを期待してしまったのですが、残念ながらそこまでの内容ではありませんでした。
これについては、本書の「おわりに」に、「(前略)読者は、不完全な感覚があるかもしれません。その理由は、ティラノサウルスの研究はまだ始まったばかりであり、わからないことだらけだからです。」と書いてあったので……仕方ないことなのでしょう。
ティラノサウルスについて現時点で分かっていることを総合的に紹介してくれる本でした。恐竜好きの方には、興味津々な内容が満載だと思います。ぜひ読んでみてください☆
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