『NEO HUMAN ネオ・ヒューマン: 究極の自由を得る未来』2021/6/25
ピーター・スコット-モーガン (著), 藤田 美菜子 (翻訳)

 全身が動かなくなる難病、ALSを患った科学者は、人類で初めて「AIと融合」し、サイボーグとして生きることを選んだ……まるでSFのような衝撃の「実話」です。
 元著名なコンサルタントで、ロボット科学者でもあるピーター・スコット-モーガン氏は、全身が動かなくなる難病「ALS」で余命2年を宣告されたことを機に、人類で初めて「AIと融合」し、サイボーグとして生きる未来を選びました。
「これは僕にとって実地で研究を行う、またとない機会でもあるのです」
様々な逆境に立ち向かってきた彼自身の半生を振り返りながら、人類の「自由」な未来への希望をつなぐ、まさに「唯一無二の」回顧録です。
 ピーターさんはAIと融合しサイボーグとして生きる人間として有名な方なので、この本には技術的情報を期待して読み始めたのですが、身体の具合が悪くなってから(50歳代)と、上流階級の学生時代などの過去の出来事が、交互に描かれていくという物語の展開に、かなり戸惑ってしまいました。
 でも読み進めていくうちに……彼がなぜNEO HUMAN(サイボーグ)になることを選んだのかがよく理解できるようになりました。……というか、彼自身も認めているように、全身が動かなくなる難病「ALS」で余命2年を宣告されて、すぐにサイボーグ化へ向けて、こんなにも精力的に動ける人間なんて、本当に彼しかいない(できない)と思ってしまいました。10代のころから、彼にはあらゆることに挑戦する能力があり(しかも超上流階級生まれ。ただし家族と断絶し貧困に喘いだ時期もあった)、逆境に負けない勇気と根性があり、コンサルタントとして会社の不文律と闘う(ルールをぶち破る)方法を指南し、そしてロボット科学者でもあったのです(しかも彼を深い愛情で支え続けるパートナーのフランシスさんは、重度の知的障害を抱えた人々をサポートする仕事についていました)。
 子どもの頃に罰を受けて打ちのめされた彼が、「これからの僕は、不公平な現実に耐えることを拒否する。代わりに現実を変えてみせる。殴られて降伏させられるのも、選択肢を奪われて服従させられるのもごめんだ。弱みを強みに変えて、新たな選択肢を創造するんだ。」と宣言したように、大人になって難病「ALS」を宣告された彼も、それを次のように受け止めたのです。
「恐怖や怒りや絶望は、まだ私の中に居座っていた――しかし、同じくらい強烈に、興奮や喜びや希望も感じていた。
すると次第に、新に湧いてきたポジティブな感情のほうが優位に立ちはじめた。体の芯から力が湧いてくるような、温かい感覚だった。心の中にこだましていた恐怖の残響にも、もはや動じることはなかった。」
「統計的には、私はあと2年で死ぬことになる。つまり、未来を書き換え、世界に革命をもたらすのに、あと2年の猶予があるということだ。」
「これは、病気や事故、老化によって生じた極度の身体障害を、最先端のテクノロジーで解決しようという挑戦だ。」
 ……凄い。凄すぎる。
 そして彼は、ALSが進行して身動きができなくなっても思い切り日常を楽しむために、ありったけの最新技術を試すことを決意しました(もちろん最初の主治医には反対されましたが)。そして、たった2年しかない猶予期間を出来るだけ活かすために、精力的に周囲に働きかけていくのです。
胃に直接栄養を送り込むインプットのチューブ、排尿用に膀胱につなぐアウトプット1号のチューブ、排便用に結腸につなぐアウトプット2号のチューブ、呼吸器のチューブ、ロボット車いす、サイバースペースや仮想現実(VR、AR)、人工知能AI、合成音声、アバター……これらを「先手」「先手」で導入していきました。まさに「生死をかけた」挑戦を続けていくのです。
「(前略)僕は人類の知の領域を押し広げていきたいと考えている。それはすべての創意ある科学的探究の目標でもある。うまくいけば、何百人、あるいは何億人もの人々を救うことができるかもしれない。」
「それ以外にも、ほとんど誰も気づいていない、隠れた副産物がある。人間とAIをシームレスに接続する方法を模索できるということだ。」
 ……熱意に頭が下がります。まさに「世の中を変えるには、あらゆる場面において、彼のような“先駆者”が必要なのだ。」のだと思いました。
 もちろん、これらの活動は順風満帆であったわけではなく、何度も失意のどん底に落とされてもいます。体調もどんどん悪くなる一方なのに、何度も立ち上がる彼(とパートナー)の姿に涙が出そうになりました。
「今できることに集中するんだ。フランシスのために、そして自分自身のために。私は嘘偽りのない希望や前向きさを行動で示す必要があった。それが、2人が前へ進みつづけるための唯一の道だからだ。」
 ……この不屈の精神に感動する一方、「サイボーグ(AIとの融合)」の技術的な話やデザインのアイデアの部分もとても参考になりました。
 例えば、ALSが進行しても動かせるのは目玉だけですが、それで合成ボイス、アバター、VRの3つをコントロールするには無理があり、賢いAIへ丸投げする必要があるとして、カーナビのように、「周りで起きていることを考慮したうえで、僕が取りそうな動きを予測して、VRの中で提案してくれる」システムを考えています。
 またサイボーグ化することで、直観的な操作によってサイバースペース全体からあらゆる電子端末にシームレスにアクセスできるようになる(ピーター<2.0>はIoTのモノの一つになる)とか、全体としてピーター<2.0>を形づくっているペルソナのさまざまなパーツは異なる場所に散らばることもできるとか、拡張現実で時間をさかのぼることが可能になり望めばそれを上書きして改良できる(過去のくだらない部分はカットすることもできる)とか……アイデアだけだったのかもしれませんが、近い将来には、本当に可能になるかもしれないと感じさせられました(ただ……残念なことに、技術的な話はそんなに多くはありません)。
 そして現在、ピーターさんがどうなっているのかを調べたところ……悲しいことに2022年6月に逝去されていました。
 それでも運動ニューロン疾患(ALS)で余命2年と診断されたのが2017年だったので、サイボーグ化することで余命を引き延ばすことに成功したと言えるでしょう。
自らを実験台として「肉体のサイボーグ化」「AIとの融合」を行うと同時に、財団を設立、インテルやDXCテクノロジーなど世界的企業のサポートを得て、継続的な研究体制を確立し、自らが生き残ることにとどまらず、「人間である」ことの定義を書き換え、あらゆる人がもっと自由に生きられる可能性を追求、研究のほか著書出版、テレビ出演などの啓発活動も精力的にこなされたそうです。
 まさに『NEO HUMAN ネオ・ヒューマン: 究極の自由を得る未来』というタイトルにふさわしい圧倒的な内容の本でした。サイボーグ化実験を行った先駆者としてだけでなく、どんな逆境にも打ち勝とうとする不屈の精神に満ちた自伝で、とても読み応えがあります。みなさんもぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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