『ジェネシス・マシン 合成生物学が開く人類第2の創世記』2022/11/17
エイミー・ウエブ (著), アンドリュー・ヘッセル (著), 関谷 冬華 (翻訳)
未来学者のウェブさんと合成生物学のパイオニアのヘッセルさんが、「生体をプログラミングする」合成生物学の限りない可能性について総合的に分かりやすく解説し、未来への提言をしている本で、内容は次の通りです。
はじめに 生命は運で決まるのか?
パート1 起源
第1章 問題のある遺伝子はお断り
ジェネシスマシンの誕生
第2章 スタートラインに向かう競争
第3章 生命の積み木
第4章 神と、ある研究者と、ケナガマンモス(に近いゾウ)
パート2 現在
第5章 バイオ経済
第6章 生物時代
第7章 9つのリスク
第8章 ゴールデンライスの話
パート3 未来
第9章 近い将来に実現しそうな可能性を探る
第10章 シナリオその1 子作りはウェルスプリングで
第11章 シナリオその2 人間が老化しなくなったら
第12章 シナリオその3 アキラ・ゴールドの2037年版「おすすめレストラン」
第13章 シナリオその4 地下の世界
第14章 シナリオその5 業務連絡
パート4 未来に続く道
第15章 新たな始まり
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合成生物学は、これまでのCRISPR(クリスパー)のようにDNA配列を読み取って編集するだけの技術ではなく、コンピューター上でDNA配列をプログラミングし、さまざまな新しい機能を持った細胞、微生物、植物、動物を生み出すことのできる、画期的な技術です。
「はじめに」には、次のように書いてありました。
「(前略)合成生物学というこの誕生したばかりの新分野では、すでに多数の成果が生まれている。工学の世界では生物学のための新たなコンピューターシステムが開発され、コンピューターのコードを生物に変換できる機能を備えたプリンターを販売するスタートアップ企業も現れた。ネットワークアーキテクチャの設計でDNAがハードドライブとして使われることもある。ナノサイズの人間の臓器をドミノのような形をした半透明のチップに埋め込む生体外ヒトモデル、ボディ・オン・チップも開発された。生物学者、工学者、コンピューター科学者をはじめとするさまざまな人々が力を合わせて作り上げようとしているのは、人間、研究所、コンピューターシステム、政府機関、それに企業で構成される、生命の新たな解釈と生命の新たな形を生み出す複雑な仕組み――ジェネシスマシンだ。
ジェネシスマシンは、すでに進行しつつある人類の大いなる転換を推し進める原動力となる。」
「合成生物学は、遺伝子操作の過程をデジタル化する。DNA配列を、DNA版テキストエディターのようなソフトウェアに読み込ませることで、文書の編集ソフトのように簡単に編集できる。DNAをこころゆくまで書き込んだり、編集したら、3Dプリンターのようなものを使って新しいDNA分子を一からプリントする。デジタル遺伝子配列をDNA分子配列に変換するDNA合成技術は、飛躍的に向上している。」
……なんか、もの凄いことが起こりつつあるようです。驚きの事実が、たくさん書いてありました。そのごく一部を以下に紹介します。
・「(前略)DNAならごくわずかな量でとてつもない量の情報を保存できる。わずか1グラムのDNAにDVD2億枚分以上の情報が入るのだ。」
・「2017年に、シンセティック・ゲノミクスは、ベンターがデジタル-生物変換機(DBC)と名づけた一種の生物プリンターのデモンストレーションを行った。ソファくらいの大きさのこの装置は、DNA/RNAの合成とアセンブリを行うロボットシステムで構成されている。さまざまな遺伝子プログラムをDBCに送ると、タンパク質やRNAワクチン、ファージ(細菌に感染するように設計されたウイルス)のDNAがプリントアウトされ、それを使って各研究所で目的のものが作られる。言い換えれば、DBCは合成生物学の設計と製造のあらゆる段階に関わる会社を丸ごと、リビングルームにすっきり収まる一つの箱に収めたようなものだ。」
・「(前略)ハーバード大学の研究チームは、食品を出荷する前に遺伝子バーコードをつけてから流通させることで、問題が発生した場合に生産から販売までの過程をさかのぼれるようにする方法を開発した。
細菌や酵母の遺伝子を組み換えて、芽胞と呼ばれる加熱しても死なない特別な細胞構造に、その生物固有のバーコードを埋め込むのだ。このような芽胞の生物バーコードは簡単には消えないが、不活性で人体に害を及ぼすことはない。さらに、肉や農産物などさまざまな食品の表面に吹きつけることができる。」
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そして「第7章 9つのリスク」には、次の9つのリスクが指摘されていました。
1)デュアルユースのジレンマ(本来は人のためになる科学・技術研究が意図的あるいは偶然に悪用される)
2)生物学は予測不可能
3)DNAのプライバシーが危険にさらされる
4)規制がひどく遅れている(政府はイノベーションの芽をつぶしてしまわないように、問題が出てくるまでは介入しない)
5)今ある法律がイノベーションを止める
6)次の情報格差は遺伝子格差になる
7)合成生物学が地理的・政治的な紛争の火種になる
8)スーパーマウス、ヒトとサルのハイブリッド
9)デマによって社会が崩壊する
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合成生物学で「暴行や犯罪の証拠のでっちあげ」が起きるかもしれないとか、中国がこの技術に力を入れているので、「遺伝子操作技術で、中国人は世界のどこの国よりも健康で賢く、がまん強く、感覚が鋭く、病気からの回復も非常に早い国民になるのかもしれない」などという予測を見ると……なんだか不安にもなるような……。
そして「パート3 未来」では、「近い将来に実現しそうな可能性を探る」ための5つのシナリオが紹介されますが……これらは本当に面白くて恐ろしい、実話のようなSFです。
さらに「パート4 未来に続く道」では、次の「合成生物学に関するリスクを小さくするための3つの提言」が示されていました。
1)機能獲得研究を禁止する(ウイルスや兵器転用への危険性が高いため)
2)バイオテクノロジー版ブレトン・ウッズ体制を作る
3)免許の取得を義務づける(合成生物学の製品や処理に関わるあらゆる人間を対象に試験を義務付け、取引や売買を監視する)
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なお、ブレトン・ウッズ体制とは国際通貨体制のことで、この新体制を監視し経済成長を促すことを目的として、世界銀行と国際通貨基金(IMF)という2つの新組織が設立されたそうですが、これが世界の資金プールを監視し規制するのと同じように、遺伝子情報を世界レベルで管理する体制を構築するべきだと言っています。合成生物学は、その影響に計り知れないものがあるので、このような体制を、ぜひ早急に作るべきだと感じました。
次のようにも書いてありました。
「(前略)私たちは合成生物学技術とバイオ経済の責任ある開発を推進するシステムを作り上げる必要がある。その手始めは、サイバーセキュリティ専門の象徴を設立し、規制政策を策定する党派の枠組みを超えた取り組みになるのではないか。そのような取り組みは、バイオテクノロジー・エコシステムの安全性と長期的な研究開発の投資目標の実現性を高め、合成生物学技術がどのように経済の発展を加速させるかという米国のビジョンを明確にし、未来の労働力を確保し、国防を強化し、国民の快適な暮らしを実現する役に立つ。」
……私たちは今、新型コロナワクチンの恩恵を強く受けているなど、合成生物学は大成功しています。それだけでなく合成生物学は、気候変動、資源枯渇、医療費増大など人類が直面している数々の問題を解決する可能性をも秘めています。でも同時に、合成生物学の普及で、持てる者と持たざる者への社会の分断がさらに進み、破滅的な未来をもたらしかねないという危惧もあることにも、しっかり対処していく必要があると思います。
『ジェネシス・マシン 合成生物学が開く人類第2の創世記』について語ってくれる本でした。400ページ以上のぶ厚さ、豊富な情報てんこ盛りの本なのに、個人的な体験やSF風シナリオなどが盛り込まれ、科学的な解説部分もとても分かりやすいので、ぐんぐん読み進めることができました。
とても大切な内容がたくさん書いてあります。ぜひ多くの人に読んで欲しいと思います。お勧めです☆
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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