『あつまる細胞: 体づくりの謎 (岩波科学ライブラリー 316)』2023/1/19
竹市 雅俊 (著)
細胞は自発的に「あつまって」私たちの体をつくり、いったんバラバラにしても、また集まる。でも条件を変えると、集まらないこともある……それはなぜか? さまざまな研究を通して、ついに細胞間接着分子「カドヘリン」を突き止め、体づくりのさらなる謎解きのプロセスを緻密に追っていく……「カドヘリン」研究の経緯だけでなく、発生生物学の研究方法なども具体的に紹介してくれる本です。
「1 細胞はあつまる」で紹介された、1900年代のカイメンの研究にまず驚かされてしまいました。
なんと、あのスポンジのようなカイメンを、布で包んで絞るという方法で細胞をバラバラにして細胞の様子を観察すると……細胞は自然に集まって、上皮や骨格からなるカイメンの体が再びできてしまったのだそうです! そして両生類、鳥類、哺乳類の胚を使った類似の研究が行われ……同じような現象が起こることが分かったとか。次のように書いてありました。
「(前略)動物の細胞は、無脊椎動物、脊椎動物由来に関わらず、バラバラにされても生きている。ただし、そのままの状態は好まず、自然に多細胞体に戻ろうとする。この時、元の組織構造を再生するのだ。すなわち、動物の体の複雑な構造は、細胞自身が自律的に作り出す。これが非常に重要な点だ。」
……ひゃー、そうなんですか。
そして、細胞どうしの接着にはカルシウムイオンが必要らしいこと、また、トリプシンによって細胞がバラバラになることが分かったそうです。
その後、竹市さんは、さまざまな実験の末、ついに細胞をくっつける接着分子「カドヘリン」を見つけました。
さらにカドヘリンには、「E-カドヘリン(上皮細胞に反応)」、「N-カドヘリン(神経系、筋肉、結合組織などに反応)」など、複数のタイプがあることも分かったそうです。
また、カドヘリンのcDNAをクローニングすることで、カドヘリンの機能を明らかにできたことも書いてありました。
「(前略)L細胞にE-カドヘリンcDNAを入れると、新たに合成された分子が細胞間に濃縮し、同時に強い細胞間接着が誘導されたのである。「接着できない細胞」を「接着できる細胞」に変えることができたわけだ。この結果は想定内とはいえ、遺伝子操作によって細胞の接着性を人為的に変えることができることが世界で初めて示され、大きなインパクトがあった。こうしてカドヘリンの機能について、阻害すれば細胞の接着が壊れ、加えれば接着が戻る、というように、逆の二つの方向から証明できた。」
……なんか凄いですね「カドヘリン」! 細胞同士を接着させるなんて。
「(前略)体全体におけるカドヘリンの分布には一定の秩序がある。すでに述べたように、上皮細胞にはE-カドヘリンが、線維芽細胞、筋肉細胞、神経細胞にはN-カドヘリンが普遍的に存在する(完全に調べられたわけではない)。また、血管内皮細胞には、VE-カドヘリンがある。
体を構成する細胞は、この三つのカドヘリンのどれかをもっており、これに、他のカドヘリンが加わることになる。どのカドヘリンが加わるかは、組織によって、あるいは、組織の部域によって異なる。」
「(前略)白血球のように単独行動し、組織を作らない細胞からは、一般に、どのカドヘリンも検出されない。カドヘリンは、あくまで、組織作りのための分子なのだ。」
……ということで、細胞をくっつける分子として注目を集めている「カドヘリン」ですが、その後の研究で、もっと多くの機能があることが分かってきているようです。
またカドヘリン「のような」タンパク質も多数見つかってきたのだとか。その総数(カドヘリンスーパーファミリー)には100ほどのメンバーがいるそうです。
「100ほどのメンバーの機能は、次のように分類できそうだ。(1)デスモソーム(注:接着斑)を作る、(2)聴覚や視覚を支える、(3)細胞の増殖および平面内極性を制御する、(4)細胞の接着面に運動性を与える、(5)細胞間の認識と反発に関わる。」
……接着は「カドヘリン」の機能のほんの一部に過ぎないんですね。
「カドヘリン」研究を通して、『あつまる細胞: 体づくりの謎』を紹介してくれる本でした。
「組織や器官の形成におけるタンパク質の役割を調べるためには、その活動を中和抗体によって抑えるか、遺伝子のはたらきを阻害するか、どちらかの方法をとればよい。」など、発生生物学の研究方法もかなり詳しく説明されていたのですが……正直に言って、かなり専門的な内容だったので、全部が分かったわけではありませんでした……でも、とても具体的に紹介されていたので興味津々で読み進めることが出来ました。教科書などで細胞が詳しく解説されている背景には、こんな地道な研究の積み重ねがあったんですね……。
とても参考になるので、生物学に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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