『14歳からのニュートン超絵解本 死の科学』2022/11/16
ニュートンプレス (その他)

 死に向かう体では何がおきているのかという生と死の境界線や、細胞がもつ死や寿命のメカニズム、さらには死を間近にしたときの心の変化など、さまざまな切り口で死について迫っている本で、主な内容は次の通りです。
1 生と死の境界線とは
2 死にゆく体でおきること
3 細胞はどのように死ぬのか
4 死と寿命の不思議
5 死と向かい合う心理
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「14歳からのニュートン超絵解本シリーズ」の本なので、雑誌のニュートンより一回り小さい普通の本サイズで、ニュートンらしい美しいイラストでの分かりやすい説明があり、とても読みやすく感じました。「死」についての本だからグロい写真やイラストもあるかも……と覚悟のうえで読んだのですが、グロいものはほとんどなかったので、そういう意味でも安心して読めました(笑)。
「死」について総合的多角的に解説してくれる本で、いろんなことを学べました。
 例えば「1 生と死の境界線とは」では、医師による「死の判定」についての解説もあります。その概要は次の通りです。
「現在では、医師が死亡判定をするときは「心拍の停止」「呼吸の停止」に加え、「瞳孔反応の消失」という三点がそろっていることを確認します。この三点が「死の三徴候」です。」
 そして世界の1年間の死者数は約5700万人で、その死因は、国の平均所得の高さで次のように違っているそうです。
・高所得国の死因の1位は虚血性心不全、2位は脳卒中、3位は認知症
・低所得国の死因の1位は下気道感染症、2位は下痢性疾患、3位は虚血性心不全
 ……そうなんだ……高所得国は、衛生・医療状態や栄養状態が良いのが大きく影響しているのでしょう。
 そして、どんな時に死ぬかと言うと……
・体温が30℃を下回ると意識を失い、20℃を下回ると多くの場合死に至ります。反対に42℃をこえると危険で、44℃をこえると細胞の機能が破壊されて死に至ります。
・水分が10%以上失われると命に危険がおよび、20%以上で死に至ります。
・失血量が40%をこえると死ぬ危険があるとされています。
・空気中の酸素濃度は21%ですが、16%を下回ると頭痛や吐き気といった症状があらわれます。そして、8%を下回ると数分で死にます。
・血液が全身に送られなくなるとき、最も影響を受けやすい臓器は「脳」。わずか30秒ほどで、脳に何らかの後遺症が残ると考えられています。
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 私たち動物(2倍体の生物)は「死ぬ」生命体ですが、細菌(1倍体の生物)や植物は「不死」だそうです。次のようなことが書いてありました。
「植物の体は、たった1個の細胞から再生が可能(全能性がある)。そこに「死」は存在しないことになる。」
「1倍体の生物は、基本的には分裂によって増えます。(中略)分裂してできた個体がもつ遺伝子セットは、元の個体とまったく同じです。栄養があるかぎり分裂して数を増やすことができ、分裂回数の限界はありません。いわば不死です。」
「2倍体の生物のほとんどは、オスとメスが協力して、個体を増やします。オスとメスはそれぞれのもつ2セットの遺伝子を混ぜて1セット分の遺伝子を生殖細胞(たとえば精子や卵子)に納めます。
 そして両親の生殖細胞が出会うと2セット分の遺伝子を持つ個体(子)が生まれます(有性生殖)。その結果、遺伝子セットのバリエーションが豊富になり、さまざまな環境に適応できる個体が生まれるのです。
(中略)異常のある遺伝子が子孫に引きつがれ、やがては種の絶滅につながる可能性もでてきます。そこで役に立つのが「死」だといいます。」
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「オス」と「メス」が出来たことで、どんどん進化(変化)してきた私たちは、異常な進化状態を続けさせないために、「死」ぬ仕組みがあらかじめ組み込まれるようになったのかもしれません。
「死」について、総合的に学ぶことが出来ました。
 この他にも、「心臓が止まると何がおこるのか」では……
「(前略)酵素とグルコースが供給されなくなると、ニューロンはATPをつくることができなくなってしまいます。すると電気的なバランスを保てなくなり、周囲から大量のカルシウムイオンがニューロンの中に流入するという現象がおこります。これをきっかけにして、ニューロンを死にみちびくメカニズムが発動し、死んでしまうのです。」
 また「死後,数時間たつと全身の筋肉が硬直する」では……
「(前略)硬直は死後24~36時間ほどつづき、その後、硬直が現れた順(注:頭から足へ)に解けていきます。死後硬直の時間や度合いは、気温やその人の筋肉の量によってことなります。
 筋肉を収縮させる際には、筋小胞体からカルシウムイオンが放出されます。すると、ミオシン線維からのびた“腕”がアクチン線維と結合し、筋肉は全体として収縮します。一方、筋肉をゆるめるときには、二つの線維の結合が解かれ、カルシウムイオンが筋小胞体に回収されるのです。
 死後、血流が途絶えて酸素と栄養が供給されないと、ATPが枯渇し、さらに筋小胞体がこわれてカルシウムイオンが回収できなくなります。その結果、線維の結合が解けなくなり、筋肉が硬直してしまうのです。」
 ……など、『14歳からのニュートン超絵解本 死の科学』にしては、かなり専門的なことまで解説してもらえて、とても勉強になりました。
 14歳というのは中学生ですが……私も中学生ぐらいのとき「死」って何だろうと考えたことがあり、いろいろな意味で「死」への関心が高くなる頃ではないかと思います。この本は、「死」について、あまり精神的なものには踏み込まず、淡々と客観的・科学的(医学的)に解説してくれるのが、とても良いなと感じました。
 中学生ぐらいの方はもちろん、大人にとっても、とても参考になると思います。ぜひ一度、読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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