『山火事と地球の進化』2022/10/18
アンドルー・C・スコット (著), 矢野 真千子 (翻訳), & 1 その他

 山火事が地球の(とりわけ植物の)進化に影響を与えてきたことを語ってくれる本です。
「1章 火のイメージ」では、2002年コロラド州で起きたヘイマン・ファイヤー(火事)後に起こったことが印象に残りました。
「現地視察をしてみてわかったのは、山火事は植物を焼くだけでなく、環境に広範囲に影響するということだった。大量の水と土が川に流れこみ、下流で土砂災害を起こすこともある。」
「直後に露見したのは川と貯水池への影響だった。チーズマン貯水池には、火事が終わらないうちから灰や燃えかすがたまり始めた。その結果、ろ過システムが詰まった。水質も悪化した。この貯水池は地域の主要な水源だったから、水質悪化は大問題だ。水面に落ちた細かい灰には鉱物灰その他の可溶性の物質が含まれていたので、そのままでは飲み水に使えなくなった。リンのような物質が溶け込んで藻の成長を促し、水中の酸素が奪われた。火事の後にまとまった雨が降ると、それがまた大変な問題を広範囲に引き起こすことが判明した。火事後浸食で押し流されてくる土砂や燃えかすがチーズマン貯水池の底に堆積し続ければ、貯水容量が低下し、水質汚染を招く。」
 ……大規模火災は広範囲に影響を与えるんですね。
 また「2章 木炭が教えてくれること」では、走査型電子顕微鏡写真で、木炭の三次元構造が詳細に分析可能になったことで、植物進化や過去の気候変化がよくわかるようになったことが、次のように書いてありました。
「植物化石の研究をしている古植物学者たちは、木炭化石に太古の植物の組織が保存されていることに気づいただけでなく、そこから当時の植生や環境、気候までをも知るデータが得られることに気づいたのである。」
「(前略)木炭化したスウィリントニアの葉に保存されていた気孔は、のちに、三億年前の大気中の二酸化濃度を測るのに利用されることになった。気孔の密度は大気中の二酸化炭素と逆相関する関係にある。二酸化炭素が少なければ少ないほど多くの気孔が必要となるからだ。」
 なんと花粉のようなデリケートなものも、火事のおかげで木炭になって保存されるそうです。
 なお本書には、冒頭に10ページのカラー写真&イラストページ、10ページのモノクロ写真&イラストページがあるのですが、このモノクロ写真には走査型電子顕微鏡で撮影したカバノキ類の木炭などの高精細画像など多数の画像が掲載されていて、超微細な組織を明瞭に観察できることに驚かされました。これらもとても見ごたえがあります。
 そして「8章 火事の未来」の終わりごろには、次のように書いてありました。
「ヒトが地球上に出現するずっと前から、火は地球を動かす原動力の一つだった。火は、生物が生きるのに必要な酸素の大気中の濃度を左右してきた。多くの動植物は火事を前提とした環境で進化し、火に適応しただけでなく、ときには自身の生存と繁殖を火にゆだねることさえした。一方、ヒトは、自分たちのニーズに合わせて火を手なずけつつ、火と共に生きることを学んできた。(中略)地球の豊かな環境をこれからも守りたいと思うなら、火を排除するのではなく、火と共存することを受け入れよう。」
「水不足になるのがほぼ確実な未来に、火事はどうなるのか、私たちは火事にどう対処すべきか、今のうちから心の準備をしておこう。(中略)私たちは未来に向けて、火は地球に不可欠な存在で重要な役割を担っていることをつねに思い返し、四億年の火の歴史からもっと多くを学んでいこうではないか。」
 ……山火事は広範囲に影響(ダメージ)を及ぼすので、とても怖いし、発生した場合はとにかく一刻も早く鎮火して欲しいと願うばかりでしたが……確かに、地球の生命は火事とともに進化してきたのだし……山火事(大規模火災)ともうまく共存していくべきなのかもしれません。
「地球システム」を動かしている火の役割について、考えさせてくれる本でした。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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