『東京大学の先生伝授 文系のためのめっちゃやさしい 時間』2022/9/20
吉田直紀 (監修)

「時間が過去から未来へ流れるのはなぜなのか」、「時間を巻き戻すことはできないのか」、「時間にはじまりや終わりはあるのか」……古代より多くの科学者を悩ませてきた難問「時間の正体」について,生徒と生徒の対話という形式で分かりやすく解説してくれる本で、内容は次の通りです。
0時間目:イントロダクション
1時間目:時間の正体にせまる
2時間目:アインシュタインの考えた伸び縮みする時間
3時間目:タイムトラベルを科学する
4時間目:暦と時計の科学
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 え? 「時間」なんて特に難問ではないような……とも思ってしまうのが普通のような気がしますが、その「時間」は、たぶん「ニュートンの絶対時間(宇宙のあらゆるものが、同じテンポで時をきざみつづける。)」をイメージしているのだと思います。
 でも20世紀はじめに,アインシュタインさんがまったく新しい時間観を唱えました。なんと時間の流れ方は,状況によって変わる「伸び縮みするもの」だと言うのです。
 相対性理論によると、高速で運動する物体の時間の歩みはゆっくりになるそうです。また一般相対性理論は、質量をもつ物体のまわりでは時間と空間がゆがみ、そのゆがみが重力の正体であることを明らかにしたのだとか……。なんかとても不思議ですが、次のようなことが実際に起こっているそうです。
「時速200メートルで通過する新幹線の時計は、駅のホームで静止している人から見ると、1秒あたり100兆分の2秒ほど遅れます。」
「地球の中間から離れるほど、地球の重力が弱まるので、標高8848メートルのエベレスト山頂に置かれた時計は、海抜0メートルに置かれた時計にくらべて、100年あたり300分の1秒ほど速く進みます。」
 そしてGPS衛星のある上空と地表とでは、重力の大きさがちがうため、相対性理論の効果を考慮して、時間の進み方のずれを補正しないと、正しい位置を割り出せなくなるそうです……そうなんだ……「時間」って不思議なものなんですね……。
 しかも、この時間の伸び縮みを利用すれば,タイムトラベルさえ原理的には可能になるのだとか。
 例えばごく短い時間ではありますが、ミューオンという素粒子の寿命がのびるという事実があります。ミューオンは、100万分の2秒ほどしか寿命がなく、すぐに崩壊して別の粒子に変化するものなので、大気上空で発生したミューオンは地上に到達することなく壊れてしまうはずなのに、なぜか地上でも観測されています。これについては、「ミューオンは光速に近い速度で進むため、ミューオンの時間の流れが遅くなり寿命がのびる」と考えられるそうです。
 また「一般相対性理論では、重力の強い天体のそばでは時空がゆがみ、時間の流れが遅くなる」ので、ブラックホールを使うと、未来へのタイムトラベルが可能になるのだとか!
「まず、宇宙船でブラックホールのそばまで行きます。そして近づきすぎて飲みこまれないように注意しながら、しばらくブラックホールの近くに滞在するんです。そして、ころあいを見はからって、ブラックホールをはなれ、地球に戻ります。」
 こんな方法で、地球では100年経過しているのに、宇宙船の中の人にとっては3年しか経過していない、などの状況がつくりだせるそうです(笑)。
 また「4時間目:暦と時計の科学」では、次のように「1秒」の定義がどんどん精密になってきていることに驚きました。
・1秒の定義1(~1956年)1秒=1日の8万6400分の1
・1秒の定義2(1956~1967年)1秒=1太陽年の3155万6925.9747分の1
・1秒の定義3(1967年~現在)1秒=セシウム原子を励起させる電磁波が91億9263万1770回振動する時間
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 なお、「時間」の定義は、「長さ」の定義にも使われていて、「1メートル=2億9979万2458分の1秒の間に、光が真空中を進む距離」だそうです。
 このように正確な時間が分かると、素粒子の寿命や相対性理論による時間の伸び縮みなど、ごく短い時間の中でおきる現象を正確にとらえられるようになるのです……なるほど、これはとても大事なことですね!
 今ではさらに正確な時計の開発が進められているそうで、その候補の一つが「光格子時計(原子時計の一種。ストロンチウム87を使用)」。ストロンチウム87の共鳴周波数は429兆2280億422万9877ヘルツなので、セシウムよりずっと精密になります。
「光格子の格子はレーザー光を照射してつくるエネルギーの障壁で、ストロンチウム原子はエネルギーの低いくぼみに捕捉される」という構造に、わくわくさせられました。とても未来感がありますね☆
 2020年には、光格子時計を使って、地上とスカイツリーの展望台(高さ450メートル)とで実際に時間の進みの違いを検証する実験が行われ、展望台にある時計は、地上階に比べて1日に10億分の4秒速く進むことが分かったそうです。このずれは一般相対性理論に基づいた計算結果と合致するのだとか。
 この光格子時計の時間の進み方の違いの測定で、高低差も検出可能になるので、火山での測定で、噴火の予兆を調べることができると期待されているそうです。
 この他にも「暦の変遷」とか、「100年間に0.53秒ほど地球の公転周期は短くなっている」とか、いろんな「時間」の不思議を学ぶことができました。
 テンポのいい会話形式で、生徒役の「理系アレルギー文系サラリーマン」の抱く疑問やツッコミが、「まさに! 私もそういう疑問を感じてたわ!」という感じだったので、どんどん読み進められました。とても勉強になるので、時間に興味のある方は、ぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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