『物理学者、SF映画にハマる (光文社新書)』2021/10/19
高水 裕一 (著)

 実物と瓜二つだった『インターステラー』のブラックホール、30年の時を経て似た惑星が見つかった『スター・ウォーズ』の太陽を2つ持つ惑星タトゥイーン……時にフィクションの壁を超えて、現実世界へと飛び出してくるSF世界。そんなSF世界の可能性と限界を、テレポーテーションから星間飛行、はたまたタイムトラベルまで、宇宙物理学の高水さんが考察している本で、内容は次の通りです。
【第1部】時間を巡る
第1章:タイムトラベルの可能性と限界
――『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズ
第2章:過去に戻った捜査官に自由意志はあるのか
――『デジャヴ』
第3章:「逆行」という新しいタイムトラベル
――『TENET』
第4章:殺人マシンは5次元世界を旅してきたか
――『ターミネーター』シリーズ
第5章: 限りなく時が止まった世界を体感するには?
――『HEROES』
【第2部】宇宙を巡る
第6章:宇宙に投げ出されたときの最後の移動手段
――『ゼロ・グラビティ』
第7章:“ファミコン”で目指した月面着陸
――『ファースト・マン』
第8章:火星で植物を栽培するもう1つの理由
――『オデッセイ』
第9章:論文にもなったブラックホールのリアルな姿
――『インターステラー』
第10章:星間飛行に必須のアプリケーション
――『スター・ウォーズ』シリーズ
第11章:宇宙人と交流するならマスクを忘れずに
――『メッセージ』
第12章:「宇宙人の視力」と「恒星」の密接な関係
――『V』
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 実を言うとこの中には見たことのない映画もありましたが、物理学的考察(解説)が面白くて、とても読み応えがありました。もちろん『バック・トゥ・ザ・フューチャー』などのように、見たことのある映画の場合は、その映画を思い出せて、一層楽しめました。
 例えば「第1章:タイムトラベルの可能性と限界」では、「量子の世界では直感と相いれない世界が姿を現す」ことが、タイムトラベルに関係しているかもしれないことに興味津々になりました。次のように書いてありました。
「(前略)例えば、陽電子という粒子は電子と時間の面で逆の振る舞いをします。つまり、陽電子は未来へ向かう電子とは逆に過去に向かう粒子といえます。
 また量子の世界では、時間も連続的ではなく、とびとびの値をとって不連続になっています。(中略)
 言いたいことは、時間を戻ることを考えると、量子力学の世界が一番現実的にできる可能性が高いということです。つまり量子状態になれば、ひょっとすると過去へのタイムトラベルが可能なのではと想像します。」
「(前略)時空多様体中の移動がタイムマシンの本質であるならば、時間移動と空間移動には差がないと考えられます。とすると、タイムマシンは実質、ワープのような空間の移動も同時にできるはずです。むしろ、それがタイムマシンであるとしたら、本来は時間だけを戻るマシンではなく、原理的には空間も当たり前に移動できる装置なのではないでしょうか。(中略)
 実は離れた空間を一瞬で移動するということでいえば、量子テレポーテーションという現象があります。これはSFだけの話ではなく、量子もつれという量子力学の現象を用いて、離れた点での移動が現実的に観測されています。現在は、単に量子という素粒子の移動ですが、これを拡張していくと、原理的には原子でできているものは全てこの移動が可能となります。」
 ……えー、なんか面白いですね!
「量子テレポーテーション」のような方法を使うなら、時間(空間)移動をするのは「情報」だけというのが最も現実的かも……という妄想がたちまち生まれてきました(笑)。
 主人公が過去(あるいは未来)に行くために、自分と似た脳構造をしているはずの先祖や子孫に「脳細胞のシグナル情報」を送ることで、過去(あるいは未来)で先祖(や子孫)が「タイムトラベラー(もどき)」として活躍する、なんていう設定はどうでしょう……どうしようもなく荒唐無稽ではありますが、人間が実体としてタイムトラベルするよりは低コストなのでは?(笑)。
 ここでは他にも、「タイムトラベルでは「因果律」が一つの大きな壁(相対論がベースとなる世界では、時間は因果律に従って、過去から未来への一方向しか成立しない)」とか、「ワームホールを使ったタイムマシンも考えられるが、ワームホールは通常の物質は通過することができない(エネルギーが負となる物質でなければならない)」とかいうような物理学的解説を読むことが出来て、ちょっと賢くなれた気がします(笑)。
 そして「【第2部】宇宙を巡る」では、一般的に無重力と言われている国際宇宙ステーションは、とても地球に近いところにあるので、「ここでの重力を計算すると、実は地表の88%ほどです。」なんて書いてありました! それなのに「なぜ国際宇宙ステーションが無重力状態になるのかというと、それは遠心力が強大だからです。」……国際宇宙ステーションは秒速8キロ(地球を1日で16周)もの速度で動いているので、無重力状態なんですね。
 また宇宙空間から見る太陽は、「中心は真っ白の強い光でその周囲が青みがかった色をしている」そうです。「私たちが、普段黄色っぽい色だと感じている太陽は、この本来の色から青空の色が散乱によって抜け落ちたために、黄色に見えているだけの幻に過ぎません。」……そうか、地球には大気があるから、太陽が赤や黄色に見えるんですね……NASAの太陽光フレアの写真みたいな感じで、宇宙からも赤く燃えて見えるのかと勘違いしていました……。
 この他にも「宇宙人が地球に来るとしたら、それはたぶん興味本位」とか「宇宙人との会話にはマスクが必須」とか、面白くて納得もできる考察を、いろいろ読むことができました。
 SF世界の可能性と限界を、宇宙物理学的視点から解説してくれるので、楽しみながら賢くなれそうな美味しい本でした。科学やSF映画が好きな方は、ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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