『いのちの科学の最前線 生きていることの不思議に挑む (朝日新書)』2022/6/13
チーム・パスカル (著)

 老化現象は不可避か? 生命現象の源であるタンパク質とはいったい何モノか? ……生命の謎へ挑む第一級の科学者10人による知の挑戦を紹介してくれる本で、内容は次の通りです。
I 進化の衝撃
1 立花誠 酵素の研究が解く「性」のグラデーション
2 後藤義幸 いかにして腸内細菌はヒトと「共生」するのか
3 中垣俊之 脳のない生物にも知性はあるのか
II 細胞のドラマ
4 清水重臣 死のメカニズムを生きる力に変える
5 竹内理 敵にも味方にもなる免疫機構を見極める
6 本橋ほづみ 老いの制御の今と未来
7 村上正晃 分子心理免疫学で「病は気から」を解明する
III コンピュータで解く生命
8 中谷和彦 遺伝子研究が導く創薬のかつてない領域
9 中村春木 タンパク質探究で生命現象の源へ
IV こころといのち
10 河合俊雄 身体の外にも広がりゆくこころ
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 どの記事も興味津々な内容でしたが、例えば「2 後藤義幸 いかにして腸内細菌はヒトと「共生」するのか」は、「腸内細菌」がヒトの健康や病気と深く関わっていることがテーマでした。どうやら「腸内細菌」は、私たちの身体に必要不可欠なもののようです。次のように書いてありました。
「マウスを無菌状態で育てる実験では、個体が正常に生育しませんでした。腸管が変形し、免疫の働き方にも異常が見られました。おそらく私たちヒトも同様で、菌の存在を前提にして身体はつくられています。もしも腸内細菌が存在しなければ、私たちはまともに生きていくことができないと言ってもいいでしょう。」
 ……「腸内細菌」は単に「健康に寄与」しているだけのものではないんですね!
 また「6 本橋ほづみ 老いの制御の今と未来」では、健康を維持するNrf2について、次のようなことを知ることができました。
「(転写因子の)Nrf2は、普段は身体を健康な状態に維持するための「生体防衛機構」を担い、細胞をストレスから守る「酸化ストレス応答」の核となる働きをしている。
 Nrf2は通常、Keap1という「抑制性制御因子」によって細胞質内で分解され、機能しないようになっている。Keap1は「ストレスセンサー」と呼ばれ、私たちの身体が毒や酸化にさらされたとき、細胞内でいち早く感知してくれる。
 するとNrf2は細胞核内に蓄積して転写因子としての機能を発揮し、「抗酸化タンパク質」や「解毒酵素」を生み出す。また、身体において大切な抗酸化物質である「グルタチオン」の合成を促し、酸化ストレスから細胞を守る。いわばこのシステムは、体のパトロールと暴動の鎮圧を行うシステムなのだ。」
 このNrf2を活性化すると、ミトコンドリア機能が改善するそうです。Nrf2、凄いですね! ただしマウスの実験では、Nrf2を活性化させているマウスは、老化はしにくいものの短命になったそうですが……うーん、「太く短い」生き方か……。
 さらに「9 中村春木 タンパク質探究で生命現象の源へ」では、AI(人工知能)が生命科学に役立っていることを知りました。
「アルファフォールドは、タンパク質の立体構造を極めて高い精度で予測できるAIである。(中略)アルファフォールドは、DNAの情報からアミノ酸の配列を調べ、これまでに判明している約18万のタンパク質の構造データと照らし合わせることで、極めて高い精度でタンパク質の構造を予測できるようにした。」
「タンパク質の構造変化をコンピュータでシミュレーションする手法は、すでに創薬などにも応用が始まっている。病気の原因となるタンパク質の立体構造をコンピュータ上に再現し、それにうまく結びつく物質を、シミュレーション計算によって何百万種類におよぶ候補の化合物の中から選び出し、合成・設計するのである。」
「アルファフォールドの登場によって、ゲノム情報が分かればその情報を基にタンパク質の立体構造を推定し、薬が効くかどうかも高い精度で予測できるようになりました。今後、インシリコ(コンピュータ内で行う)技術は、さらなる医療革新を私たちにもたらすはずです。」
 この他にも、「オス化を促す「SRY」遺伝子が存在するだけではオスにはなれず、その働きを調節する酵素も必要」だとか、「新型コロナの感染で患者が死に至ってしまうのは、ウイルス自体が引き起こす悪影響よりも、ウイルスに対する免疫応答が強く起こり過ぎてしまう現象が大きな要因」とか、参考になる話題がたくさんありました。
 また「図書館が核だとすると、本棚が染色体、個々の本が遺伝子、そこに書かれている文字がDNA。」という核や遺伝子のイメージ説明も、とても参考になりました。なるほど……。
『生きていることの不思議に挑む』研究の最前線を、紹介してくれる本(科学読み物)です。生命科学に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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